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真っ白になった頭で一番初めに思ったこと。それをオブラートに包まず口にした。
「気狂いかい?」
海の目元が狭まった。
「海くんどうしちゃったの、そんなクレイジーガイじゃなかったでしょ。俺が至極当然苦手なクッキー食いながらさ、平然とそんなこと言うなんてさ、もう異常者じゃん鬼畜じゃん、精神おかしいじゃん」
俺の眼、神しか見えてねえぜ?
そう言った海はどこへ行ったんだ。
「俺、海と別れたくねえよ……」
俺の胸のど真ん中。そこには海しかいないのに。
岩の塊のように蹲った俺の真上から、海の強い声が降ってきた。
「馬鹿かっ。誰が神と別れるっつったよっ」
その言葉で、顔を上げる。
「ち、ちげえの?」
「ちげえよ、カモフラだよカモフラッ」
「カモフラージュ?」
「そうっ」
彼の意図がすとんと心に降りてこず固まっていると、海は俺の前で胡座をかく。そして指さす真下の絨毯。
「母親が勘付いてんだわ、俺と神とのこの関係」
「へ?ギシギシミシミシしてねえのに?」
「ラブラブイチャイチャが聞こえてんだよっ」
「チュッチュとか?」
「そうそう」
そんな微かな音までが床一枚隔てた一階へ聞こえているとは考えづらいが、海が声のボリュームを抑えたから、俺も音量を下げた。
「美咲を彼女にして、親に紹介するってこと?」
「ああ。そうすりゃ気兼ねなくお前とここでラブラブできんじゃん」
「ミシミシも?」
「それは追々考えるけど……」
「だけど全ては?」
「神のため」
「きゃん」
心が踊った華やいだ。海は俺の心を操るコントローラーを持っている。
「じゃ、じゃあ土曜日の件、美咲にオッケーだって言っとくわ。いいムード作りあげてやっから、必ず美咲を彼女にしろよ」
パチンと合わせる手の代わりに、俺等は静かなキスをした。
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