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当日の海は白いニット姿だったからか、白馬の王子様のように見えた。
「ゲコッ」
美咲が予約してくれたレストランに到着するやいなや、俺がカエルの鳴き声しか出せなくなったのは、店全体に行き渡るこの香りのせいだ。
「ゲロゲロ、ゲコゲコッ」
口元に手をあてがい、命からがら席へ着く。俺以外の瞳は輝いていた。
「うっわ。なにこの店超好み!全部うまそーっ!」
俺の隣、メニューを一枚捲っただけでもはしゃぐ海。それを見た美咲が言う。
「え!海くんもアジアンテイスト好きなの!?」
「おう、すんげえ好きっ!」
「よかったぁ〜。ちょっと女子向けすぎたお店かなと思ってたんだけど、ホッとしたあっ」
きゃっきゃと手を叩き喜ぶ彼女の目には、斜向かいに座るカエルが映らないのだろうか。
「ゲボゲロ、ゲロロッ」
いや、それでもまだ、俺には味方がいると信じている。何故ならば目の前のアイラは、イギリスでの暮らしが長かったハーフのアイラはきっと──
「私もアジアンだぁい好きっ」
「ゲロンパ!」
俺はトイレへ立ち、鼻腔にティッシュを押し込んだ。
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