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卓上が、俺の嫌いなものだけで彩られた。穏やかな口調で聞く。
「美咲さんのそれはなんですか……?」
「これ?季節の野菜ハーブ蒸しだよ」
「そうですか。アイラさんのそれはなんですか……?」
「これはねえ、牛肉と葡萄のバジルミントソース添え」
「そうですか。海のこれはなんですか……?」
「パクチーたっぷり海老炒飯っ」
「ティッシュを超えてぼくの体内に入ってくるのは、おそらくこれですね……」
俺はそこら辺に見えたペーパーナプキンを二、三枚ちぎって、鼻の穴へと詰め込んだ。
「神人くんは、それだけで足りるの?」
オレンジジュースのみを啜る俺に、アイラが聞いた。
「私のひとくちあげようか?」
俺はぶんぶんと横に首を振った。
「俺、エスニック系はちょっと苦手で……」
「え、そうだったんだっ。じゃあ他のお店にすればよかったね、ごめんね」
「う、ううんいいよ。俺以外はみんな好きなんだし……」
アイラとの会話中に隣をふいと見やれば、そこには仲睦まじくトークに花を咲かせるふたりの姿。
「へえ、エスニック系のブッフェが近くにあんの?全然知らなかった」
「けっこう手頃な値段でね、種類も多いんだよ。海くんがよければ今度私と一緒に行こうよっ」
「おう、超行きたいっ」
行きたいの先頭に「超」はいらなくね?とか思ってしまう自分に気分が沈む。これはただの作戦なのに。
「あー、わかるそれっ。あのうどん屋ではココナッツミルクうどんが一番美味しいよねー。海くんと私、食の好みバッチリッ」
そう、これは海と俺の関係を上手くいかせるためだけの、ただのプランだ。
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