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おい自分、これは作戦だろ?何を嫉んでいるのだ。海は俺を愛している。海と俺の関係は、誰にも引き裂くことなどできないのだとわかっているだろう?
お経の如く、そう何度も唱えながらの登校中、何かが肩にぶつかった。しかし今の俺は一心不乱。それが何だと確認することすら難しい。
「これは作戦、これは作戦、これは作戦、これは作」
その心へ力尽くで押し入ってきたのは、見知らぬ男だった。彼が西校の生徒だということだけは、制服の校章でわかる。
「海神の神ってのてめえか、濱口さんのことボコッたの」
グググといきなり胸ぐらを掴まれて、腹が立つ。
「誰、お前」
「見りゃわかんだろっ。西校の人間だよ」
「西校の、誰」
「濱口さん慕ってる後輩だよ!」
「ハマーの後輩?じゃあ俺より歳下じゃん。仲良くねえんだから敬語使えよ」
「うるせえ!」
その瞬間、大きな手の平でビッタンと頬を殴られたかと思ったら、胸も乱暴に放されて、150センチが宙を舞う。尻から着地すればもちろん尻も痛むし、計り知れない敵意を抱く。
「んだコラてめえ……まだゴング鳴らしてねえじゃねえかよ!」
「喧嘩にゴングなんかねえよ、立てよオラ」
「しかもなんだよてめえのタッパッ!NBA所属してんだろ!」
「はんっ。褒めてんの、それ。ちっせえ神とは40センチくらいは差ぁありそうだなあっ」
シュッシュと空気に向けてシャドウボクシング。準備運動に勤しむ男の前、俺は海に電話をかけた。
「おーい海、合体すっぞー」
鼻をほじくりながら呑気にそう言うと、彼から意外な返事が届く。
「わりぃ。今俺美咲と一緒だから、喧嘩できねえわ」
「は……?」
ぽろんと出ていく鼻くそ一粒。それを目で追った。
「いやいやいや、今日の相手、俺よりまじデカいんだわ。なんかアメリカからわざわざ飛行機乗って来てくれちゃったらしくて」
「悪い、行けねえ」
「ハマーよりでけえかも」
「ごめん、神」
「へ」
「お前ひとりで、今日は頑張って」
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