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ツーツーと耳元で鳴り響く不通音。無意味な板と化したスマートフォンは、パンツポケットに捩じ込んだ。時間をかけて、立つ。
「はいっ。じゃあそゆことで。今日がお前の命日だわ」
ブレザーを脱ぎながらそう言った。道行く誰かにそれを踏まれても気分を害しそうだから、ガードレールへ綺麗にかけて。
「だって俺、たった今超嫌なことあったから」
袖を捲って、肩を回して。
「よーい、ドンッ」
俺は男に飛びかかる。
名も知らぬ歳下の彼が意識を失うその瞬間まで、無我夢中に殴り続けた。慈悲とか情とか、そんなものは一切感じられずに、彼がただのサンドバッグに見えた。そして時折、俺の恋人である名村海にも見えてしまった。
ピーポーとパトカーの音がして我に返ると、周りは大勢のギャラリーで溢れ返っていた。彼等を一周ぐるりと見渡せば、全員が全員、俺を異端者のような目で見ている。
「なんだよ……」
見覚えのある、その瞳。
「俺が……俺がわりいのかよっ……!」
それだけ言い捨ててブレザーを掴む。逃げ去る俺を誰も追わないのは、きっと俺が異端者だからだ。
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