48人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
「海ぃ……」
闇雲に走り、辿り着いた公園のベンチへ腰を下ろすと、涙がはらりと舞い落ちた。
「海、海ぃ……」
俺は海が大好きで、海も俺を好きでいてくれているのに、どうしてうまくいかないのだろう。
「ううっ……」
今は冬。寒くて、吐息は白くて、木々は裸んぼう。
ただでさえもの寂しいこんな季節だから、この国はクリスマスや正月、バレンタインなどを積極的に取り入れて、華やぐことに奮迅している。
そう、だから行き場を失くしたこの切なさは、国のせいにでもしておこう。幸せ者しか楽しめないようなイベントばかりを用意した、日本のせいに。
毎日が月曜日ならば、毎日がただの火曜日ならば、何年も前のバレンタインのことも、昨日のひとりぼっちも、もうとっくに忘れられたかもしれないのに。
最初のコメントを投稿しよう!