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本望ではないが、仕方ない。試合にもならぬこんな馬鹿げた対戦、降りた方がよほど賢い。
「許して、ください……」
土下座などするつもりはなかったが、落下した俺の頭は膝の前。彼等はそう捉えただろう。
「俺が、悪かった……ハマーの勝ちだよ……」
腹部が痛い。声を出すのも辛い。だけど誠意を見せねばまたやられてしまう。
「まじで申し訳──」
申し訳なかった。そう言い終わる前に、前髪から起こされる顔。
「なぁにが俺の勝ちだよカス!!さっきの俺の話聞いてなかったのかコラ!俺は今日、てめえを殺すっつってんだよ!」
間近の距離で叫ばれて、濱口の唾が顔面へと乱射される。
「青井神人!てめえを仕留める!俺の勝ちはそん時決まる!今頃命乞いしたっておせえんだよ馬鹿やろうが!サツとか法とかどーでもよくさせるくらい、てめえは俺をキレさせたんだ!後悔はあの世でしてろ!」
血走る彼の瞳に、嘘や偽りは見えなかった。濱口は俺を殺すと、心を決めている。
おもむろに立ち、彼は言う。
「よく聞け、カス。てめえはちっせえのに喧嘩はだいぶうめえほーだよ。それは認めてやる。だけどお前はな、悲しいことに馬鹿だったんだ。俺に挑んだ、それがお前の運命を分けちまった」
バットのグリップを強く握り、真上へ翳す濱口。
「馬鹿は死んでも治らねえっていうけど、もし治ったら、今度は友達になってやるからな」
そう言って、振りかぶる。その時だった。
「馬鹿はどっちだよ、ばーかっ」
大きな濱口の肩越しに、海の姿が現れた。
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