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「か、海……?」
驚愕したのは俺だけではない。濱口と他のふたりも、目の玉を丸くさせていた。
「な、なんでてめえがここに……」
バットを下ろした濱口がそう聞くと、海は手元を光らせた。
「なんでこんな物騒なものが地面に落っこちてんの?魚屋か肉屋でも通ったん?」
ペチンペチンと刃物を叩いて、時々「よっ」と空気へ向け突く挙動。
「はいはい、ちょっと道開けてねー。じゃないと刺しちゃうからねー」
刃物の先端で、あちこちの空を切り刻めば、自ずと道は開いていく。
「お待たせ、神」
ついには俺を括っていたロープまでいとも容易く切った海。捕縛から解かれ、感動からか痛みも消え失せ、代わりに涙が込み上げる。
「な、なんでお前来たんだよ……俺さっき、お前に酷えことっ」
「あんなん酷くねえよ。俺の方が酷いこと、ずっと神にしてた」
「ふぇ?」
「お前は俺が胸を張れる、自慢の恋人だ。これからはもう、なにも隠さねえっ」
そう言うと、海は俺にキスをした。今までで一番優しい唇だった。さらりと靡く、海の髪。鼻先で香る彼の匂い。瞼を閉じた彼を、俺は暫く見つめていた。
ゆっくりと離れる、ふたつの唇。
「愛してるよ、神。俺はお前と一生一緒にいたい。今まで本当ごめんな」
俺もと気持ちを伝える前に、三方向からバットを落とす音がした。
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