コンビ結成

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 喧嘩をするにあたって最も重要なのは、最初の一発だ。これが心底痛かったら相手は怯むし、逆にへなちょこだとナメられる。(かわ)されたり拳ごと捕まった場合は、次の一手の動作へ移るよりも先に攻撃を受けてしまう可能性がある上、それで眩暈(めまい)でも起こしてしまえばもう、その(かん)本気は出せない。だから初めの一撃はすごく肝心だ。  普段の俺は、相手の鳩尾(みぞおち)にメリケンを放つのが定番スタイル。けれど濱口とは二回目の対戦だ。この手は封じることにしよう。というかそもそも今日の俺は、187センチの肩に乗っかっているせいでビッグマンになりすぎているから、相手の鳩尾なぞ遠くて届く場所にない。それに加えて今気が付いたことだが、濱口の胸ぐらも俺の腕では掴める距離になければ、この体勢では足も上手く振りかぶれない。  ここで「ああ、やっちまった」などと思うのであれば、それは素人だ。何故ならすぐそこには、己の手刀がある。 「ジンジンじわじわチョーップ!!」  うねうねした濱口の髪の毛をむんずと掴み引き寄せると、俺は彼のてっぺんに向かって何度も何度もその刀を振り下ろした。 「ジンじわチョーップ!ジンじわチョーップ!」  ついでに髪の毛も幾らか引き抜いて(まる)くハゲでも作ってやろうかと思ったけれど、彼のブレイズヘアは剛毛でしっかりしている。これは無理だと諦めた。 「カスてめえ!ふっざけ!」  俺を丸ごと落下させようと、濱口の両手は俺の手首を掴みにかかった。途端に()いた、彼の大きな上半身。 「今だ、退()けっ」  その合図で動くは海。俺の股から後ろへ勢いよく首を抜いた彼は、俺のふたつの靴底をチアリーダーのように上へとダイナミックタップ。焦った濱口が一文字叫ぶ。 「な!」  この所作に慌てた彼は、俺の手首へ向かわせていた図太い腕をそのまま盾にしようと試みた様子だった。が、もう遅い。俺はすでに、右足を思い切り振りかぶっている。 「ポッセイ──」  後は、濱口の顔面目掛けて発射するだけ。 「ドォォオオン!!」  確かな手応(てごた)えだか足応(あしごた)えと共に、彼は背から落ちていく。ドサンと舞う砂埃、グホッと吐かれる真紅の液体。スチャッと最後に聞こえた気持ちの良い音は、着地に成功した俺の足元から。  いつの間にやら集まっていた野次馬の溜め息には、悲嘆と感嘆の両方が入り混じっていた。  意識定かではない濱口を150センチの高さから見下ろして、俺は最後にこう言った。 「さっきも言ったが、あいつが名村海で、俺は青井神人だっ。べつに覚えとかなくてもいいけど、この界隈(かいわい)でしゃしゃりてえなら一応覚えとけっ。テストに出んぞっ」  返事は出来ないのかしないのか。三秒間待ったけれど無反応だったから、俺は海と目配せをしてその場を去った。
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