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初めてのキスは千景の家の近くの公園だった。その日はいつも以上に話していたくて、帰りたくないと思ってしまった。先輩は受験生だから早く帰れるように千景から早めに帰ると切り出さないといけない。それなのに、どうしても先輩と離れがたかった。隣にいつまでもいたかった。
千景がそう思っていたときだった。
不意に視界が暗くなったと思って瞳を上げると、羽が触れるようにうんと優しく先輩の唇が重なった。驚いて目を見開いてしまった千景を見て先輩は
「本当にチカは可愛いな」
と優しく笑って、大きな手で千景の頬に触れた。それから驚き固まる千景にもう一度キスを落とした。
初めてのセックスは先輩の部屋だった。初めて訪れた先輩の家は千景の想像以上に大きかった。よりいっそう先輩との隔たりを感じて萎縮する千景を、先輩はうんと優しく口説いて、千景が大好きな優しいキスをたくさん落とした。初めてのセックスは本来受け入れる器官でないところを使用するため、死にそうなほど痛かったけれど、優しく千景のペニスをたっぷり愛撫してくれたのでちゃんと気持ちよくもなれた。
何より先輩が千景の中で達してくれたことが嬉しかった。
泣いてしまった千景に
「ごめん、チカ。痛かった? 怖かった?」
と焦る先輩を見て、胸の奥の柔らかいところがじわりと暖かくなってまた泣いてしまった。そのため翌朝はびっくりほど腫れぼったい顔になってしまった千景のまぶたを先輩は甲斐甲斐しく冷やしてくれて、腫れぼったい顔にも優しく何度もキスしてくれた。
先輩の家族はクリスマスもお正月も海外で過ごすと言うので、千景は冬休みの殆んどを先輩の家で二人きりで過ごした。
千景の両親は離婚協議中で、どちらもそれぞれの恋人と過ごしているため、自宅に帰らなくても誰も千景を咎める者は居なかった。いつも一人きりで寂しくてたまらなかった。それなのに、今はそんな冷たい両親で良かったなんて思ってしまうほど幸せな時間だった。 受験勉強の追い込みをする先輩の身の回りの世話を手伝って過ごして「なんだか新婚さんみたいだね」なんて言われて優しく腰に腕を回されて幸せではち切れそうだった。
同時にその幸せはもうすぐ終わることも千景にはわかっていた。
だから、千景は幸せを感じれば感じるほど辛くもあった。
先輩が受験する大学は全て東京だ。 新幹線に乗ればほどなくして東京に着く。大人にしたら大した距離ではないが、中学生の千景にとっては地の果てに思えるほど東京は遠く感じた。
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