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「すごい、高浜くんって勉強できるんだね」
高校二年の夏、隣の席になった彼女は、僕の古文のテストの結果を全く遠慮することなく横から覗き込んでこう言った。
「えっ…い、いや全然…ただ暇なだけで…」
「ふーん…。ね、もし出来たらだけど、今度勉強教えてくんない?」
「…ぼ、僕?」
「お願いっ!私、ホントに古文苦手で…」
そんな風に、手を合わせて懇願されたら断れる訳がない。
「まあ、僕でよければ…」
「やった!ありがとう!」
彼女は歯を見せて眩しく笑った。
これが彼女との出会いだった。
綾野満希。
これが彼女の名前だ。
明るくて、積極的で、気配りができて。
クラスの人気者と言われたら代表例として真っ先にあげていいような、そんな人間が彼女だった。
だからもちろん、消極的で、人付き合いが苦手で、帰りのHRが終わったら秒速で帰宅するような僕とは全く交わることがないはずで。
なのに僕らは、何故かくじ引きによる席替えで隣同士になり、そしてどんな展開か、僕はテストが近づくと、時々彼女に勉強を教えるようになったのだ。
けれど、僕とあの彼女という組み合わせが気に食わないように思うクラスメイトもいたらしい。
僕は自分が言われる分にはどうでもよかった。
けれど、彼女が酷く言われているのを聞いた時、この関係を断ち切らなければいけないと思った。
僕のせいで、彼女が酷く言われるようなことがあってはいけないと。
「綾野さんといるせいで、クラスメイトから好奇の目で見られたりとか、
変に絡まれたりするのとかうんざりなんだ。…だから、もう…終わりにしたいんだ」
そう告げた時の彼女の表情は、今まで見たことがないものだった。
いつも笑顔を絶やさない彼女はその時、本当に傷ついた表情をして、僕を見ていた。
その顔を、僕はずっと頭の中から消すことができない。
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