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「先生! 横井さん、目を覚ましました!」
真っ白な天井。重なる人の声。
何かのセンサーの規則的な電子音。
「豊⋯⋯良かった」
俺を乗せた飛行機は、日本付近の太平洋上空850メートルで悪天候によりエンジントラブルを起こして不時着水をした。だが幸いなことに、その近くを日本の貨物船が通っていたおかげで、乗客乗員全153人が無事に救出されたらしい。
――「らしい」というのも、俺はたぶん着水の衝撃で気を失い、気付いたときには運ばれた病院のベッドの上だった。
飛行機の搭乗記録から名前が判明し、スマートフォンの発信履歴から彼女に連絡が行った。
手に感じる温もりは、彼女、祥子の手だった。「赤ちゃんができたの」と顔をくしゃくしゃにさせて泣いていた。
俺は関西国際空港には行っていなかった。
それならあの5人はどうなったのだろう。
そもそも、存在していたのか――。
「あの⋯⋯建築士の横井さんですよね。私のこと、分かりますか」
隣のベッドから聴こえるその声は、あのグレースーツの銀行員だった。
「もちろんです。ということは」
「他の方もみんなこの病院に」
「そうですか⋯⋯本当に良かった」
「いい寿司屋ができるといいですね」
「⋯⋯ええ。きっとできますよ」
それぞれが「おかえり」と迎えてくれる人の元へ帰ることになった。
俺も帰ろう。
「ただいま」と言える場所へ。
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