うちへ帰ろう

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 俺は途方に暮れていた。  そうはっきりと分かるくらいに。  しかし悲しいかな、33年間の人生と状況はさほど変わらないとも思えて、笑えた。  たぶん、この翼を模した緩やかなアールを描くデザインの吹き抜けにいる誰よりも、俺は冷めた目でこの景色を見ているはずだ。  ひとまずこれからどうするかを考えるのが最優先だろう。だが、等間隔に並ぶ、目にも鮮やかな色彩のベンチのひとつに深く腰をかけ、この配色には規則性があるのだろうかと思考は現実逃避する。意味もなく。  慌ただしく行き交うグランドスタッフや大型キャリーバッグを足早に引く人、仕方なくベンチに座る大勢の人々などが、虹色グラデーションのベンチを主役として描かれた絵画の背景のように見えた。 ――大勢の人間がいるのに酷く孤独を感じる。  ここで俺ひとりが姿を消しても、誰も気付かないだろうな。   時差ボケのせいか体が重い。  脳みそと全身がそれぞれに明確な意志を持って逆方向に動いているみたいだ。  この状況下で与えられた選択肢は数少ない。慌てたり焦ったりしても得策ではない。つい今しがた降機した飛行機ですら霞んで見えるのだから、この場所からの移動は確認しなくても絶望的だろう。  出張先のサンフランシスコから東京の自宅へ帰宅する途中だった。  18時40分羽田着のはずが、すでに21時を回っている。しかも目的地から500キロも離れた関西国際空港のターミナルのベンチで、俺は途方に暮れていた。
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