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「やつはどこへ向かったんだ?」
「わかりません。二手に分かれましょう。俺が上の階に行きますので、サムは地下をお願いします」
「待て。分かれるのは危険だ。応援が来るまで待機」
「そんなの待っていられません! もし民間人がいたら避難させるべきでしょう!」
「だからこそだ。爆発物処理班を待つんだ、ジェイク。君自身も危険だとわかっているのか?」
「いちいち危険を気にしていて刑事なんかやっていれるか!」
サムとの押し問答が続く最中、事態は急変した。立体駐車場の上階から発砲音が鳴ったのだ。
「っ、ジェイク!」
サムの声を振り切り、ジェイクは上階へと駆け上がった。地上五階まで上がったところで、ジェイクは不審な男の姿を見つけた。
「止まれ! そこから動くな」
男はジェイクと同じような年頃で周囲に紛れやすいようなスーツを着ている。ジェイクが追っていたモッズコートの男ではないが、不自然に膨らんだ胸元に拳銃が仕こまれていることが簡単に見て取れた。
ジェイクは拳銃を構え、男に照準を合わせた。
「ニューヨーク市警だ。銃をゆっくり地面に下ろせ。それからこちらへ寄越すんだ。少しでも妙な真似をしたらお前の膝を撃つ。わかったな。ゆっくりだ」
ジェイクが低い声で恫喝すると、男は彼の言う通りにした。
たどたどしい動きだ。男は金で雇われた素人だろう。ジェイクは肩の力を抜いた。
背後に何者かの気配を察知したとき、振り返る前にジェイクの全身に電流が走り、何もできないまま崩れ落ちた。筋肉に無数の針を刺されたかのような痛みに呼吸さえままならない。
視界の端に自らの銃が映る。あと数インチ。この右手を伸ばせば届く。だが襲撃者はジェイクの思惑を嘲笑し、最後の希望を遠くまで蹴飛ばした。
「……っ」
「悔しいかい?」
低く、落ち着いた男の声だ。男が屈みこみジェイクが他に武器を携帯していないかを検める。仰向けに返されて初めて男の顔が見えた。
「僕のことをサミュエルから聞いているはずだろうに、こうして簡単に背後を取られてしまって、君はさぞや悔しいだろうね、ジェイク」
――俺の名を知ってるだと?
モッズコートの男、ビル・スコットは三年前の資料に添付された写真よりも幾分憔悴した面持ちだ。しかし赤毛の前髪や黒縁の眼鏡のさらに奥に潜む眼光は、力強い意志を放ち、ジェイクを凄ませた。
「話せないだろう。本来、君に危害を加えるつもりはなかった。恨むなら君の相棒を恨め」
立ち上がったビルが何か――おそらく拳銃の類であろう――を構えたが、ちょうど逆光になっていて、ジェイクの目にはそれが本物なのかどうか見分けがつかない。
次に来る衝撃で自分の運命が決まる。しかもこの身動きが取れない状態で。ビルの言う通り、やはりサムが元凶なのかもしれない。
だが今この瞬間、真っ先に思い浮かんだ顔は彼の相棒の顔だった。
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