Liquidation

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「え……」 「順を追って説明しよう。三年前の二月、僕とサミュエルは犯罪グループ摘発のために、下部組織の調査をしていた。  僕が撃ったとされている少年・トッドは構成員の中でも末端の少年だったが、ボスの近親者ということもあり、彼が持つ情報は利用価値が高かった。サミュエルはすぐにでもトッドとコンタクトを取ろうとしたが、僕は彼を止めた。トッドはまだ十六歳だったし、手持ちの情報が少ない中、ターゲットとの接触は危険だと判断したからだ。  しかし当時サミュエルは警部に昇進したばかりで、端的に言えば手柄が欲しかった。僕らはパートナーだったが、肩書上僕は当時警部補で彼の部下だった。僕はサミュエルを止められなかった。彼の暴走癖は今もそのままかい?」 「……はい」  知らない情報ばかりで困惑していたジェイクを気にかけたのかビルが話を振ってきた。曖昧なまま返事をするとビルは苦く笑った。どうしてこれだけ大規模の捜査資料が残っていないんだ。すべて隠滅されたとでもいうのか。 「初耳だって顔している。君の想像通り文字通り消されたのさ。何もかもね。話を戻そう。事件の日、僕らは雪が降る中、トッドがアジトから出るのを待った。最初に声をかけたのはサミュエルだ。彼はバッジを見せて話がしたいと言った。トッドは嫌がる素振りを見せた。  僕らを無視して立ち去ろうとしたとき、サミュエルが叫んだ。〝銃だ!〟と。僕の身体は反射的に動き、サミュエルと一緒に拳銃を構えた。トッドは両手を上げたが遅かった。  銃声が轟き、トッドが雪のアスファルトに倒れ、じわじわと血が滲んでいった」  ビルはそこで言葉を切り、ジェイクと顔を合わせる。 「ジェイク。君だけでも信じてもらいたい。トッドを撃ったのはサミュエルなんだ」 「……サムが」 「僕らは同じ銃を支給されているが、当然線状痕(せんじょうこん)は個々で異なる。盗撮されたとき、確かに拳銃を持っていたのは僕だが、トッドを撃ったのは僕じゃない。それなのに上層部は検証すら行わず、僕にすべての罪をなすりつけて切り捨てた。きっとサミュエルは自分の面子を守るために、僕ひとりを矢面に立たせたんだ。その結果がこれさ。サミュエルは降格処分を受けたものの、新しい場所で君というパートナーに出逢い、手柄を上げている。僕は職どころか愛する妻子を目の前で失いサミュエルへの復讐心だけで生きている。どうかな、ジェイク。第三者から見て、君はこの事件をどう考える?」 「俺は……」  サムとビル、両方の話を聞いた今、ジェイクの中にあるのはサムに対する憤りが大きい。きっと話していないだけで、もっと酷な状況だったのだろう。だが、今、自分が出すべき答えはこうだ。ジェイクは配管を頼りに上体を起こし、ビルと同じ目線になって答えた。 「俺はあなたを信じる。サムはあなたに対して最悪の過ちを犯した。取り返しのつかないことをした。だが俺はサムの相棒だ。あなたの犯した一連の事件でサムが心を痛めていることを知っている。現に俺もあんたの被害に遭っている。過去の事件について、サムはあなたに謝罪をし、すべてを清算すべきだ。でもあんただって自分の罪を認めて法の裁きを受けろ。これが俺の答えだ」  この答えが外れならば撃ち殺されても構わない。ジェイクは自分の主張を突きつけた。ビルは静かに目蓋を閉じ、長い一息を吐く。ジェイクはビルの一挙手一投足を逃さないように、鋭い視線を貫き通す。やがてビルの答えが出た。 「ありがとう、ジェイク。僕を信じてくれて」  ジェイクの両頬にビルの手が添えられる。触れる指先は冷たく、死人のようだ。 「本当に、君を死なせたくはない。僕の本心だ。これも信じてくれるかい?」 「悪いがそればかりはお断りだ。ビル。あなたは人を殺すような人じゃない」 「――それは君がビルの本性を知らないからだよ、ジョニーちゃん」  ほんの数時間離れていただけなのに懐かしい声が、ビルの肩越しに聞こえた。 「遅かったじゃないか、サミュエル。ここに来るまでの間に、何か小細工でもしてきたのかい?」 「僕が? まさか。大事な相棒のピンチに小細工するほど僕は馬鹿じゃないよ。君の要求通り武器も不所持だ。確認するかい?」 「今の君に近づいたら即撃ち殺されそうだから遠慮するさ」 「遠目からでも結構。ほら、どうだい? 拳銃もナイフも仕こんじゃいないさ」  ビルの身体が壁になっていて、この場所からサムの姿をはっきりと確認できないが、どうやら彼はジャケットを脱ぎ捨てたらしい。サムもビルも口調は穏やかだが、少しでも隙を見せれば殺されかねない、殺伐(さつばつ)とした空間になった。 「君の言葉が真実だと受け取っておくよ、サミュエル。君は相棒のためならば〝何でも〟する男だからな」  ビルがジェイクから奪った拳銃をサムへ向ける。  今の自分に何かできることはないのか。ビルがサムを撃ち殺してしまう前に。 「……ああ、そうさ」  サムはビルの皮肉を真摯に受け止めた。
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