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以降、毎月二十五日に同じ文面が書かれたカードがサム宛に届く。カードは様々でそのどれもが大量生産されているものであり、当然のことながら指紋や筆跡では差出人を特定できなかった。
「ちなみに最初に届いたカードはあなたに直接渡されましたよね。きっとあなたのことだからとっくに処分していると思いますが、幸いケビンがコピーを取っていました。不審な荷物や手紙に気をつけるように俺が指導していたので」
「なるほど。彼は優等生だな」
皮肉交じりなサムの言葉に、ジェイクは呆れさせられる。ただここで口喧嘩を始めようものならば、永遠に話が進まない。ジェイクは呼吸を整え、話を続ける。
「それから管轄内でボヤ騒ぎから始まり、爆弾事件にまで発展している。それも日にちはすべて手紙が届いた日、つまり毎月二十五日。人命こそ脅かされていないものの、今後エスカレートする可能性あり。今月に入ってからはまるでカウントダウンのように毎週のように届いている。間違いないですね」
「ああ。さて、次は僕の番か。まず何から話そうか……」
言いながらサムはデスクの引き出しを開けて、あるものを取り出した。年季の入った木製の写真立てだ。
「彼を覚えているかい?」
写真立ての中には制服警官時代のサムと同じく、制服を着た赤毛で眼鏡をかけた男が肩を寄せて写っていた。ジェイクはこの写真に見覚えがあった。
「確か去年くらいかな……ほら、雪の日。一度話しただろう? 制服時代の同期のビリーだ」
「ええ、覚えています。ただあのときは……」
そう。深く追求しなかった。この写真を見るサムの表情があまりにも哀しげに見えたからだ。
「ビリーが関わっていると?」
「十中八九、そうだろうね。というよりも、彼が犯人だと僕は確信している」
「彼にいったい何が?」
「詳しくはこのファイルに書かれているが、先に要点を話すと、彼はとある事件を起こして解雇処分を受けたんだ」
「解雇処分?」
「無抵抗な市民――しかも黒人少年への発砲。少年は一命を取り留めたが、偶然現場を撮影していた人がいてね。すぐに動画が出回り、ビリーは社会的な制裁を受けた」
「その世間への復讐だと、あなたは考えているのですか?」
「いや違うね。個人的な復讐。ビリーは僕に復讐をしたいのさ」
「それはどうして?」
「理由はいくつかある。まずビリーは信頼を失墜し処分を受けた。次にバッシングはビリーだけじゃなくて彼の家族にも及んだ。そのせいでビリーの奥さんは娘を巻きこんで心中した。そして何よりも――」
サムは一呼吸置き、手元の写真を見ながら続けた。
「――ビリーは何も悪くない。すべては僕の勘違いが引き金だったんだ」
サムのオフィスを出たジェイクは、脳内の情報を整理するのに忙しかった。
自分のデスクに戻ったが、すぐに捜査を進められるはずもなく、いったん席を立ちコーヒーを淹れに行った。
抽出してから時間が経っていたであろうコーヒーはとても飲めた代物ではなかったが、コーヒーの苦みよりもサムの告白の方がずっと苦く、ジェイクを苛んだ。
――ビリーは何も悪くない。すべては僕の勘違いが引き金だったんだ。
これは言葉通りの意味なのか。あの後サムはビリーことビル・スコットのファイルをジェイクに託し、自らは気分が悪いと先にオフィスを出た。
コーヒーと共にデスクに戻ったジェイクは、ビルのファイルを一から読み始めた。概要はサムに聞いた通りだ。解雇処分を受けた後、ビルは警察を辞め、妻子と共にニューヨークを離れたが、その後妻子を失う。以降音信不通で行方不明。
ビルが事件を起こしたのは三年前。サムが降格処分を受け左遷された時期と重なる。サムは自分のせいだと言ったが、上層部はビルに対して重い処分を下した。サムが言うには、だが。
妻子が命を絶った日付を見て、ジェイクは背筋を凍らせた。
十二月二十五日。
二十五日。
爆破事件が起きた日とまったく同じだ。
「カーター巡査部長!」
血相を変えたケビンが何かを手にジェイクのデスクに駆け寄る。
「また届いたのか?」
「はい。しかし文面が今までと異なっています」
「何だとっ?」
ケビンから手紙を受け取ったジェイクは内容を読んで息を呑んだ。
『十七分署の管轄内に爆弾を仕掛けた。数は四つ。十二月二十五日、午後十三時に起爆する。四つのうちいくつかダミーも混ぜてある。これをもって私の過去は清算されるであろう』
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