2 はじまりは雪の中

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 雪山を上昇していくリフトの上で、私は、その情けなさから、既に半泣き状態だった。すると先生が言った。 「俺もさ、スキー苦手なんだよ。教えといてなんなんだけど」 「……え?」 「そりゃさ、若い頃はよく仲間でスキーに行ったさ、あの頃の冬の娯楽っていえばスキーがお決まりだったからな。だけどさ、俺、下手すぎて、それが原因で結婚するつもりだった彼女にフラれたんだよな」  リフトは白の世界の中をゆっくりと私たちを上へ上へと、連れて行く。それに揺られながら、先生の思わぬ告白は続く。 「だから、スキーなんて二度としたくなかった。それが何の因果か、教師になんぞなったおかげでこのザマさ」  私はただ、無言で真白な視界のなか、先生の、白く曇った銀縁眼鏡の横顔を見つめるのみだ。 「それはともかく……なあ、松永、スキーなんて、できてもできなくても、人生には何の問題もない。この浮世離れした白い景色を見て、ああ、綺麗だったなあと、その思い出さえ胸に残して帰れば、この旅行は万事オッケーだ」  ……その言葉に、私の目から、雪の中に涙がほろりと落ちた。  そしてあの時、私の心も、先生の手中に落ちたのだ。
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