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4 四月二日の理由
あの冬休みから三ヶ月。
私はその間に、第二志望の大学にどうにか受かり、卒業式を無事、迎えることができた。そして、先生と学校外で、こんな風に待ち合わせして会うのは、今日が初めてだ。
その先生は、いま、私の前で夢中でメロンと苺を貪っている。先生が新宿で行きたかった場所は、タカノフルーツパーラーのフルーツバイキングだったのだ。先生は、こんもりと皿に盛られた果物を前にご満悦である。
「いや、ここ、女性同伴じゃないと男は入れないだろう? だから、今度、彼女ができたら、デートはここにしようと踏んでいたんだ」
ひとしきり果物を食べ終わると、フルーツティーを飲む私の前で、先生は満足そうにそう述べてみせた。それを耳にして、思わず、私はこう尋ねずにはいられなかった。
「先生、ずっとずっと、そんなこと思っていたんですか?」
「いや……ずっと、というわけではないが、怜奈と付き合いだしてから、それを思い出してな」
先生は無精髭に付いた果汁を紙ナプキンで拭いながら、こともなげにそう語を継いだ。そしてその言葉の中には、またしても、さらりと私の下の名前が入っている。
「……今日は、怜奈、って呼ぶんですね」
「今日からは、そう呼ぼうと思っていたんだが、駄目か?」
「駄目じゃないけど……なんで今日から?」
「晴れて四月を迎えて、教師と生徒でなくなったら、呼びたいと思っていたんだよ。ずっと。だから今日……四月二日には逢おう、って思ったんだ」
そして先生はホットコーヒーを啜ると、真面目くさってこう付け加える。
「昨日にしなかったのは、エイプリルフールだと、なんか嘘っぽくて嫌だからだ」
その顔つきと口ぶりに、私は吹きだした。
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