コーヒー色のストーカー

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 またあの人がいる。  楓の新入社員生活は順調に滑り出したが、ただ一つ気がかりなことがある。マンションの近くから乗る都営バスの中で、ときどき視線を感じることがあった。ある日、バスの中で突然振り返ったとき、サラリーマンが目を逸らした。二十代後半くらいで、顔はどこといって特徴がない、暗い印象の青年だった。  今日も、バスにその男が乗っていた。視線を感じたが、それを無視して、スマホの画面を見つめていた。ふと、昨日の新入社員歓迎会での先輩の美智子の言葉が蘇った。 「新入社員はストーカーに狙われやすいのよ。楓ははっきり物を言えないタイプだから、特に気をつけなさいよ。隙を見せたら絶対だめ」  運転手のアナウンスが聞こえた。 「お客様に申し上げます。白河バス停の近くで水道管破裂のため、一時交差点が閉鎖になっております。迂回しますので到着が数分遅れますが、何卒ご了承ください」  溜め息がバス中に広がった。楓もその一人だったが、どうせ数分の遅れで済むから大したことはないだろうと思って、また意識を画面に戻した。
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