温もり

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「あら、これ懐かしいわね。」 そう言って母が押し入れからコタローを出してきたのは俺の就職が決まり荷造りをしている時だった。何年ぶりかに見るコタローは分厚い埃を被り、前よりも毛並みが黒くなっている気がした。昔は本物の猫のように思っていたが 『猫型AIペット タイプ01』 腹の充電プラグの印字が造り物だと物語っていた。 「懐かしいわね。あんた、よく充電を切らしてはコタローが死んだって泣いてたっけね。」 母が覗くアルバムに目をやると、そこには幼い頃の俺とコタローがいた。笑っている時も泣いている時も。うちで昼寝している時も旅行に行っている時も。自分でも覚えがない程に全ての写真に俺とコタローは一緒に写っていた。 「最初はおもちゃとして買ってあげたんだけどね。あんたがずっと一緒にいるもんだから、なんだか本当の家族みたいだったわ。まぁおもちゃとしては良く使ったほうだと思うわよ。」 母のその言葉に俺はなんだか嫌な気持ちになった。俺が放ったらかして押し入れに入れていたのに、矛盾した気持ちが湧いてきた。コタローの存在を否定されたような、そんな気がした。俺は徐に押し入れの奥からコードを引っ張り出すとコタローの腹へと繋げた。不思議なもので写真を見返すと当時の記憶がほんのりと蘇る。 両親の帰りを待ち兼ねて泣いていた俺の側で、頬を寄せ慰めてくれたコタロー。 ご飯を食べていると自分は食べられないのに強請るように見つめるコタロー。 お風呂にまでついてきて俺が出てこないとドアに爪を立てるコタロー。 毎日短い足でトコトコと俺の後ろを付いて歩き、嬉しそうに尻尾を振るコタロー。 あぁ、俺はコタローが大好きだったんだな。 本当のペットでも家族でも生き物ですらない。 だけどコタローはちゃんと存在していた。 俺は手の埃を払うと古くなったブラシで数年ぶりにコタローの毛並みを整えた。するとコタローは懐かしい声で「にゃあ」と鳴き尻尾を振った。 「おかえり、コタロー。」
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