平成36年は訪れない

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 「いらっしゃい!」  店主の声が店内に響く。  賑わうテーブル席の先のカウンター席のひとつに腰を下ろした。  「ご注文は?」  「塩ラーメンをひとつ」  注文を伺いに来た店員にいつものように頼み、店員は厨房に戻っていく。  今のうちに、と思い後ろのサーバーから水を注いだ。  周りの席では家族が仲良くラーメンを分け合い、昼休みだろうか?ツナギを着た男たちがわいわいと騒がしくラーメンをすすっている。  「はい、塩ラーメンお待ち!」  スマホを片手に水を飲んでいると厨房から店員の声が降ってきた。  ラーメンを受け取り、カウンターに置くと食欲をそそる湯気が立つ。  めいいっぱい匂いを吸い込み、スープを飲んだ。やけどする舌にもお構いなしに麵をすする。  少し食べた後に満を持して右端に置かれたすりおろしにんにくを手に取った。たっぷり2杯、スープに入れて混ぜる。湯気ににんにくのいい香りが混ざった。  もう一度麵をすすり思う存分この味を堪能する。  休憩がてら水を飲んだところで、壁に掛けられた営業許可証が目に入った。  ご丁寧にも額縁に入れられているそれは、この店が店として存在していることを明らかにしている。  許可証には平成30年から36年までの営業を認めると書かれていた。  チャーシュー、メンマ、ワカメにスープも飲み干して席を立つ。  「お会計950円です!」  会計を済ませ外に出る。  空を見上げると青空の中で太陽が燦々(さんさん)と輝いていた。  車に乗り込み帰路につく。  「平成36年、か……」  あの時はまだいつも通りの日々が過ぎると思っていた。  平成36年もいつか訪れると当たり前のように思っていた。  あんなことが起こるなんて誰も思っていなかった。想像すらしていなかった。  平成36年は訪れない。絶対に。  そのことにどれだけの人が驚いただろう。  絶対に変わることのない真実。  平成が終わる前にあのラーメンをもう一度食べることが出来てよかったと思う。  家につく。  車から出て鍵をかけた。  ドアの鍵を開け、ドアノブに手をかける。  
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