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プロローグ 日常の変化
日本の首都――東京。季節は夏。この世界では、ある存在の噂が囁かれている。心を食べられてしまうとか、形のない感情を宝玉に変えてしまう、なにかがいると。
ある一軒家の一階に住んでいる青年は窓を開けて、 怠そうな顔をしていた。
十五歳くらいだろうか。身長は一六〇センチほどで、男の中では小柄な身体つきをしている。黒髪はツーブロックで首の上あたりで切られている。ごく普通の顔立ちをしていて、グレーの半袖Tシャツに、砂埃に塗れたジーパンを穿いている。
名は直登と言う。
窓から差し込んでくる日の光を恨めしそうに眺めて、直登は椅子に座って、溜息を吐いた。
二階には一人の男がいた。
煙草を喫っている。カーテンはきっちりと閉められている。
身長は一八〇センチと高く、見た目は二十八歳くらいか。夏だというのに、ワイシャツを羽織っていて、スラックスを穿いている。それらはすべて黒だ。
癖のある黒髪は首のあたりで切られている。切れ長で吊り上がった目をしていて、一見、不機嫌そうにも見える。
男の瞳の真ん中は黒だが、右目が真紅で、左目がダークブルーのオッドアイだ。
白い肌に、高めの鼻梁と薄い唇。とても美しい顔立ちをしている。
男の首にはケースつきのネックレスが下がっている。
男は節くれだった長い指で、煙草を灰皿に押しつけ、ネックレスのケースを開ける。
中には深い紫色と、煙のような黒が少し混じった玉が入っている。
これは、宝玉と言う。直登から奪った、喜び、嬉しさ、楽しさの感情がひとつに凝縮したモノ。男が数多く目にしてきた宝玉の中で、一番深く、美しい色をしている。男は直登に、偽りの感情である、透明な宝玉を与えた。人間の命の次に大事なモノが、感情とされている。その色はさまざまあるが、大きく分けて、単色か、深い色だ。宝玉とは、いわば、写真のようなもの。宝玉を手にしてしまえば、それに宿ったエネルギーは枯渇せず、契約者が死んでも宿り続けるのだ。
名はヴァノ。
感情を宝玉にするという力を持った、悪魔である。悪魔であるのに人の姿でい続けている変わり者だ。〝感情の支配者〟と言う二つ名を持っている。日の光が苦手なため、必要な買い物や、仕事をこなすのは、基本的に夜だ。
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