第一章 暴力団

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「いけるか?」  ヴァノは直登の部屋に顔を出しながら尋ねた。 「ちょっと待って」  ベッドに座ってぼうっとしていた直登が我に返った。砂埃に塗れたジーパンを穿いている。その辺にほったらかしにしていた、着古した焦げ茶色のジャケットを羽織った。  自分の細い腕を見たくないからという理由で、直登は外出する際に、長袖を着る。  それに夏であっても、夜は比較的涼しいのだ。  直登はヴァノを見てひとつうなずいた。  部屋の電気を消し、直登はヴァノの後をついていった。  ヴァノは玄関を出て、無言で歩き出した。  その半歩後ろを直登が追う。  道を照らす街灯があと一本でなくなるタイミングで、ヴァノが振り返った。  きょとんとする直登に、魔導書が入った鞄を渡した。  それを受け取る直登。 「アジトまでもう少しだが、ここから先は明かりが無くなる。俺の手首をつかめ。そうすれば見えなくとも問題ない」  直登はうなずくと、そっと左手でヴァノの手首を握った。  ヴァノは先ほどより、歩調を緩めて歩き出した。  右手に力を込めながら、直登はついていく。  暗闇の中を歩くこと五分。 「着いたぞ」  ヴァノは声を上げた。  目の前には巨大な倉庫と思われる建物があり、窓から光が漏れている。 「中に入ったら、すぐに隠れろ」 「うん」  直登はうなずいた。  倉庫の前まで歩いていき、直登の目が明るさに慣れるのを待ってから、ヴァノはフードを目深に被り、引き戸の取っ手に手をかけた。 「いくぞ」  直登はうなずいた。  ガラガラと音を立てて、引き戸が開く。 「誰だ!」  ヴァノは無言で中に入ると、男達を一瞥した。  殴られている男が一人。両手を縛られている。その周りにはここの連中と思われる五人の男達。  真紅の右目からは幸せだということを示す、花模様が立ち昇り、ダークブルーの左目には人の不幸を示す、黒い煙が立ち昇る。殴られている男からは黒い煙が、殴っている連中からは花模様が浮かび上がった。  ――そりゃ、殴っている連中は気分がいいだろうさ。  ヴァノは顔をしかめながら思った。
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