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「いけるか?」
ヴァノは直登の部屋に顔を出しながら尋ねた。
「ちょっと待って」
ベッドに座ってぼうっとしていた直登が我に返った。砂埃に塗れたジーパンを穿いている。その辺にほったらかしにしていた、着古した焦げ茶色のジャケットを羽織った。
自分の細い腕を見たくないからという理由で、直登は外出する際に、長袖を着る。
それに夏であっても、夜は比較的涼しいのだ。
直登はヴァノを見てひとつうなずいた。
部屋の電気を消し、直登はヴァノの後をついていった。
ヴァノは玄関を出て、無言で歩き出した。
その半歩後ろを直登が追う。
道を照らす街灯があと一本でなくなるタイミングで、ヴァノが振り返った。
きょとんとする直登に、魔導書が入った鞄を渡した。
それを受け取る直登。
「アジトまでもう少しだが、ここから先は明かりが無くなる。俺の手首をつかめ。そうすれば見えなくとも問題ない」
直登はうなずくと、そっと左手でヴァノの手首を握った。
ヴァノは先ほどより、歩調を緩めて歩き出した。
右手に力を込めながら、直登はついていく。
暗闇の中を歩くこと五分。
「着いたぞ」
ヴァノは声を上げた。
目の前には巨大な倉庫と思われる建物があり、窓から光が漏れている。
「中に入ったら、すぐに隠れろ」
「うん」
直登はうなずいた。
倉庫の前まで歩いていき、直登の目が明るさに慣れるのを待ってから、ヴァノはフードを目深に被り、引き戸の取っ手に手をかけた。
「いくぞ」
直登はうなずいた。
ガラガラと音を立てて、引き戸が開く。
「誰だ!」
ヴァノは無言で中に入ると、男達を一瞥した。
殴られている男が一人。両手を縛られている。その周りにはここの連中と思われる五人の男達。
真紅の右目からは幸せだということを示す、花模様が立ち昇り、ダークブルーの左目には人の不幸を示す、黒い煙が立ち昇る。殴られている男からは黒い煙が、殴っている連中からは花模様が浮かび上がった。
――そりゃ、殴っている連中は気分がいいだろうさ。
ヴァノは顔をしかめながら思った。
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