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ミケラスは探偵でもないのにみんなから探偵だと思われています。なぜかというとある日一ぴきのネコのなくしたものを探し当てたからです。それはぐうぜんだったのですがうわさはあっという間に広がって、どういう訳だかこまったことがあるとネコ達はミケラスをたずねて来るようになったのです。そんなネコ達を放っておけないミケラスはしかたなく全ての依頼を引き受け、かいけつしようと走り回りました。そして今日もミケラスが飼い主のサトルさんと暮らす赤い屋根にクリーム色の壁の家の庭へ一ぴきのサビネコがやって来ました。ミケラスは二階の出窓からそれを見るとため息をはきながらも階段を下りげんかんのネコ用ドアから少し太めの体をよっこらせと通してサビネコの前に姿をあらわしました。
「どうか助けて下さい、探偵さん」
サビネコは泣きながらそう言ってミケラスにしがみつきました。
「おれは探偵じゃないってのに。まあいいや。言ってみな」
ミケラスはサビネコの背中をポンポンとさすりました。
少し落ち着いたサビネコはワサビと名乗り、今日あったことを話し始めました。ワサビは飼い主のアキちゃんが小学校に行っている間、いつものようにこっそりと家を抜け出して外を散歩していました。すると少しはなれた場所に今は別々に暮らしている兄弟らしきネコを見つけたのです。話しかけようとかけ出しましたが兄弟はにげて行ってしまいました。
「ぼくだよ! 思い出してよ!」
ワサビは追いかけました。ようやく立ち止まったネコに近付いたワサビはびっくりしました。兄弟とは全然ちがう顔をしていたのです。
がっかりして帰ろうとしたワサビでしたが辺りを見わたすとそこは全く知らない場所でした。帰り道がわからなくなったワサビは泣きながら当てずっぽうで歩きましたがまようばかりです。しかしつかれて座り込んだ落ち葉の上でワサビはあることを思い出しました。こまった時に何でもかいけつしてくれるというネコ探偵ミケラスのことでした。ワサビは色々なネコに聞きながらミケラスの元にたどり着いたのです。
「わかった。アキちゃんの元に帰ろうじゃねえか。でもよ、あんまりきたいすんなよ?」
事情がわかったミケラスは姿勢を整えてしっぽをビビビビッとゆらしました。
ミケラスはまず聞き取り調査を始めました。近所のネコはだれか。近くに目立つ建物はあるか。ワサビが住んでいるのはどんな家か。わかったのは一つ目にパッチとチャチャというネコが近所に住んでいて、二つ目に近くには自動車が並んでいる建物とかべに野菜の絵がかいてある建物といつもおいしそうなにおいがする建物があって、三つ目にワサビは真っ白い家に住んでいる、ということでした。ミケラスは頭の中に地図をうかべ三つの地域のどれかにワサビの家があると推理しました。そしてワサビといっしょに一つ目のヒントであるパッチとチャチャがいる地域へと向かうことにしました。そのとちゅう、ワサビはアキちゃんが友達のところで生まれた五ひきのネコの中からワサビを選び飼うことを決めたのだとミケラスに話しました。そしてさみしくなってしまったワサビはアキちゃんとの思い出話を続けます。ある日二階でアキちゃんといっしょに遊んでいたワサビは楽しい気分のまま階段の手すりに飛び乗りました。注意して歩かなければなりませんでしたがなにせ楽しい気分だったのでそんなことには気が回りませんでした。するとワサビは足をすべらせて手すりから落ち、ゴロンゴロンと階段を転げ落ちてしまったのです。痛い痛いとワサビは泣きました。アキちゃんは急いでワサビにかけよります。そしてぶらんとしている足を見るなりワサビをダンボールに入れ、それを持って家を飛び出すと近くの小さな動物病院へと走ったのです。アキちゃんはその時まだ小学一年生でした。一人でワサビを連れて来たアキちゃんに病院のおじいちゃん先生もおどろいていました。けれどアキちゃんがすぐに病院に連れて行ったおかげでワサビの足は元に戻ったのです。ワサビはその時のことを今でもアキちゃんに感謝しているのです。
「アキちゃんに会いたいなあ」
ワサビが目をうるませているとミケラスは立ち止まりました。一つ目の場所に着いたのです。
そこにはミケラスの知り合いの目がパッチリした黒ネコのパッチとおでこにだけ茶色い毛が生えている白ネコのチャチャがいました。
「おう、久しぶりだな。おまえたちに聞きたいんだけどよ、このワサビってのを知ってるか?」
「いいや、知らない」
二ひきのネコは首を横にふります。
「ミケラス、ぼくの知ってるパッチはハチワレネコでチャチャは茶トラネコなんだ」
ワサビは申し訳なさそうに言いました。
「なるほどな」
ミケラスはここはちがうようだと頭の中の地図にバツ印を付け、それから二つ目のヒントである自動車が並んでいる建物とかべに野菜の絵がかいてある建物といつもおいしそうなにおいがする建物がある地域へと向かいました。
そのとちゅう、ワサビはミケラスのことが知りたくなって今までどうやって生きてきたのか、飼い主とどうやって出会ったのか、あれこれと聞きましたがミケラスはじっと正面だけを見つめて何も答えてはくれませんでした。気まずい空気のまま二つ目の場所に着くとそこはちゅうしゃ場でした。それに近くには八百屋、そしてコロッケを売っている肉屋があります。自動車、野菜、おいしそうなにおい、というワサビの言葉からミケラスが推理した場所です。
「ここはどうだ?」
「うーん、ぼくの家の近くには新しい車が並んでいる建物があって、八百屋で売ってるトマトとかきゅうりの絵がかいてある大きな建物があって、コロッケのにおいだけじゃなくてもっと色々な食べ物のにおいがする建物があったと思うんだ」
「なるほどな」
ミケラスはここもちがうようだと頭の中の地図にバツ印を付け、それから三つ目のヒントである真っ白な家のある地域へと向かいました。
「……おれの話、まだ聞きたいか?」
ミケラスがそう言うとワサビはわくわくしながらうんうんとうなづきました。
小さなころ、ミケラスは飼い主に捨てられてしまいました。悲しいというよりもくやしい気持ちになったミケラスはこの辺りのボスネコにたのんで元の飼い主を探してもらったのです。しかし幸せそうに暮らしている姿を見てむなしくなってしまいました。
「一ぴきで生きていくことにする」
ミケラスはボスネコにそう告げました。
「それも良いし、仲間を見つけるのも良い。また人間に飼われるのも良い。意見なんて変えたって良いんだからその時思った通りに生きろよ」
ボスネコはそう言うと優しくミケラスをなでました。
ミケラスにはその時はまだその言葉を受け入れることが出来ませんでした。
それから自分の縄張りが出来たミケラスは赤い屋根にクリーム色の壁の家の庭を通り道として使っていました。そう、サトルさんの家です。サトルさんは最初窓から様子を見ていただけでしたがしばらくしてその窓からえさの入った皿と水の入った皿を出すようになりました。ミケラスはけいかいしてそれに口をつけませんでしたが毎日皿を出すサトルさんの姿を見て一ヵ月後、ついに口をつけました。サトルさんになでるのを許したのはそれからニヵ月後。だっこを許したのはそれから三ヵ月後。家の中に入ったのはそれから半年後でした。サトルさんは物静かで無理にミケラスを触ろうとはせず、ミケラスが寄って来た時だけなでました。ミケラスは思ったのです。また飼われるのも良いな、と。そうしてミケラスはミケラスという名前になりサトルさんの飼いネコになったのでした。
「良かったねって言っても良い?」
悲しい話があったのでワサビはおそるおそる聞きました。
「まあな」
自分のことを話すのが苦手なミケラスはツンとした顔でうなづきました。
話が終わるころ、二ひきのたどり着いた三つ目の場所は青い屋根に真っ白い壁の家でした。ここでなければもう一度推理をやり直さないといけません。
「ここはぼくの家じゃない。けど見たことがある建物ばっかりだ」
近くには自動車屋、スーパー、レストランがあります。
ワサビは走り出しました。ミケラスも後を追いかけます。
自動車屋の横を通り過ぎ、スーパーのちゅうしゃ場をつっ切って、レストランの庭にある池を飛びこえ、草むらで遊んでいたハチワレネコのパッチと茶トラネコのチャチャを見つけたワサビは思わずうれしくなって二ひきに頭をゴツンゴツンとぶつけました。その先には茶色い屋根に真っ白い壁の家が見えます。そして心配そうにワサビの名前を呼ぶアキちゃんの姿もです。
「アキちゃん! アキちゃん!」
ワサビはアキちゃんの元へかけて行きます。
「ワサビ! どこ行ってたの!」
ワサビに気付いたアキちゃんもかけ出します。アキちゃんとワサビはだきしめ合って泣きました。
ミケラスは遠くからその姿を見ていました。
「やっぱりおれには探偵のさいのうがないな」
ミケラスはそうつぶやいてワサビとアキちゃんに背を向け歩き出しました。
「ミケラス、ありがとう!」
ワサビが叫ぶ声が遠くから聞こえます。
探偵の仕事を終えて家に帰ったミケラスは少し後に同じく仕事を終えて帰って来たサトルさんを何事もなかったかのように出むかえました。
「ただいま」
「ニャーン」
ミケラスはサトルさんがしゃがむとひざの上に乗ってゴロゴロとのどを鳴らしました。みんなにはひみつですが今ではミケラスはサトルさんにたくさん甘えているのです。
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