ねこの住むまち

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 真正面の窓ガラスに、何かが貼り付けられている。よく見ると、貼り付けられていたのは紙だった。  紙に何かが書いてある。  もっとよく見るために、窓辺の引き出しに入れてあった眼鏡を取り出した。掛け直してから、もう一度、真っ直ぐ見つめると紙にはこう書かれていた。 ー やぁ、元気かい? ところで、  2匹の猫が何かを話していたね ー  たった一つの会話が、スケッチブックの紙に大きく書かれていた。  その瞬間、息をのんだ。  これって、なんだか久しぶりに近所の人と会話した気分を感じたからだ。  猫たちを見ていただけだが、反対側のアパートの住人は僕を見つけたのだろう。  僕は言葉を探した。  ムクムクとした何か返したいという衝動を抑えながらも、なんて返事をするべきか、咄嗟の一言が思い浮かばない。  えーと、気の利いた言葉って何だったかな。
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