ねこの住むまち

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 まともに人と直接話したタイミングを長い間失って、ユーモアセンスに溢れる会話を忘れてしまった。だが心の中にあるこの衝動は、ハッキリとしている。  自分は誰かと話したがっていることを。  一人で生きる部屋に、ただ籠るだけの人生には、もうそろそろ限界を感じている。  部屋の中に戻り、ペンを探した。そして大きな紙に書けそうな白い紙を見つけて、ペンを走らせた。  こんなこと何か馬鹿げているかもしれない。  そういう考えもよぎったが、それでも自分がしたいと思う衝動で出来ることだと思えた。  引き出しからテープを見つけて、素早く引き延ばして紙を窓に貼り付けた。 ー 元気だよ。君は?ー  その瞬間、どこからともなく、猫の鳴き声が聞こえた。 了。
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