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「平井さんと仲のいい先生?」
私が尋ねると、保健室の先生は天井を見上げながらうんうん唸り始めた。用務員のおじさんは平井さんというらしい。今初めて知った。
「特に誰か仲が良いって言うのは、聞いたことないわね。校長先生とは時々話してるみたいだけど、仕事のことかもしれないし」
「やっぱりそうなんだ」
「やっぱり?」
先生の瞳がスッと細められ、疑わし気なものに変わる。その鋭い視線から、私は即座に手元の参考書に目を落とすことで逃れようとした。
「あなた、何か変なこと考えてない?」
「……考えてないし」
「そうかしらね」
それきり追及はされることなく、私はおじさんの交友関係についての情報と、ついでに名前を知ることができた。
別に、本当に変なことなんて考えてなんかないんだ。
ただ、いつも校内のいたるところで見かけるおじさんが、いつも一人で、たぶん仲のいい人もいなくて、きっと私と同じような境遇にいる人なのだと確かめたかっただけ。
その事実に、心の中に降り積もる落ち葉へと風が吹いて、ヒラリと数枚が飛んでいったような、そんな気がしているだけ。
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