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その日、私は昼休みの時間にグラウンドを眺めていた。
手洗い場のふちに腰を掛けて、バスケやらバレーボールやらをしている人たちをぼうっと眺める。輪の外から眺めるその人たちは皆明るく笑っていて、悩み事なんか無いみたいだ。そのことが私の心にまた一つ暗い影を落とした。
ふと思い立って、おじさんの姿を探す。すると、運動場端の植木の下で、落ち葉をかき集めているいつも通りの作業着が遠目に見えた。相変わらず一人で黙々と作業をしているその姿を見ると、ホッとした。
「あっ……」
次の瞬間、グラウンドで遊んでいた男子が蹴り飛ばしたサッカーボールが、おじさんの方へとそれ、落ち葉の山を思いっきり吹っ飛ばした。時間をかけてかき集めたおじさんの苦労の結晶が、あっさりと辺りに散らばって風に乱れる。
酷い有様だ。なのにおじさんは、作業の手を止めるとわざわざサッカーボールを追い、拾って男子生徒へと手渡していた。男子生徒は深々と頭を下げてそれを受け取るが、散らばった落ち葉には目もくれずに再びグラウンドへと戻っていってしまう。
その光景を見た私は、たまらなく嫌な感情が湧き出てくるのを抑えることができなかった。
「何、あれ」
あんな謝罪はポーズだけの偽物だ、と私は感じていた。本当に申し訳ないと思うのなら、落ち葉を集めるのを手伝うはずだ。それを、自分の都合だけを優先して、頭を下げたのだから自分には何の負い目も無いとばかりにボール遊びに目を輝かせているのは、あまりに偽善的ではないか。
途端に運動場にいる全ての人たちの笑顔が、胡散臭く、気持ちの悪いものに思えた。きっと彼らには、私や、おじさんのような人間の気持ちなど一生理解できないに違いない。そんな憤りに一人、拳を強く握りしめた。
「茜……?」
聞こえた瞬間、しまったと思った。
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