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 村役場が私に世話をしてくれたのは都会から来た子どもたちが利用する山間留学施設の簡単な管理と運営だった。木造の古い廃校を利用したものなので、小さな図書室の管理も仕事に含まれている。陽光が差し込む廊下に細かな(ほこり)が反射して輝く。遊んでもらえる相手がいない校庭のブランコも寂しそうだ。春休みに入って留学生が来れば、その喧騒にこの静かな光景もかき消されることだろう。  村の職員二人と施設内を一通り見て回り、職員室を改造した事務所に戻るとき今は使っていない図書室にも案内された。流行りの本は、元々は教室だった各研修室の本棚に用意されているので、ここにあるのは三十年も前の青少年文庫や村の郷土資料がほとんどということだった。  そして少女はそこにいた。  しかし村の職員には少女は存在していないようだった。なぜなら職員が彼女の体をすり抜けて書架の間を何事もなく歩いて行ったからだ。私は少なからず驚きはしたが、不思議と恐怖心は()かなかったので、()えてそのことは口にしなかった。それほど少女はさりげなく、ごく自然に見えたのだ。まるで立体の静止画像のように。    
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