外を視る

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~外を視る~  冬休みも終わって、静かな外に、暖房がついた教室の放課後。私は暗くなったクラスを一人、写真に収めた。  いつものクラブの拠点の理科室から少し足を伸ばしたのは、珍しく教室を撮ろうと考えたからだった。  友人の部員はインフルエンザらしいし、よくクラブに遊びに来る友人も、今日はいそいそと家へ帰ってった。  そりゃあ、無理もない。今日なんかは雪が積もり、ホームルームで教師から早めに帰れと催促されたほどのものだ。運動部も今日は雪が降る前の五時過ぎには終わり、帰ったらしい。まあ、今は六時前で、私はその忠告を笑顔で無視したのだが。だって、外は絶景のシチュエーションなのだから。これは学校を利用しない手はない、写真部の性である。  そんなわけでひとりぼっちの私は一人で静かな教室を撮っていた。  「夜の教室って、好奇心沸くわよね」  誰に問うでもなく、一人呟く。教室に静けさが来るまでは缶コーヒー片手に小説を読んでいたからか、私は気分が高揚していた。自然と主人公に影響されてしまったのだろう。降り積もる雪の中、復讐と悲哀の間で泣いていた主人公に。サヨウナラって言った後、寂しいなって、呟いてたっけ。  「うう、にしても寒いわね…」  身震いひとつして、後ろのカーテンに目をやる。やっぱり、開いてた。道理でたまに風が入ると思ったんだ。近づかなかっただけで、鍵を開けた時から元々空いてたのか…。  教室なのに木枯らしの下にいた主人公に自分を投影してしまったのは、多分これのせいだな。  私は誰かに恥ずかしさを誤魔化すように、咳払いしながらやや強引に窓を閉めた。  その時だ。  「ああ、もう、涼しかったのに」  フワッと風が目の前で流れる。  ……カーテンの奥には、少女がいた。気付かなかった、女の子だ。  白い肌に黒いポニーテール、制服は当然うちのもの。ずっと右手で首を抑えているその子は、私の知る限りではクラスメイトではない。緩く首には包帯が巻かれていた。  「えっと…転校生?なわけないか…何でこの教室に?」  とりあえず、誰かを聞いてみる。…が、その子はつっけんどんと私を睨んだ。  「それより、私が先客なのに何であんたが閉めちゃうわけ?」 「え?」  先客?  おかしい。私は確かに、先生から鍵を貰い、開錠したはずなのに。  となると、閉じ込められていたのか?電気もつけずに?  「いや、というか、今日はすごい寒いけど…涼しい?」  色々気になるけどまずはそこだ。今日は零度より低いんだぞ。珍しく雪も、数年振りに降り積もってるし。  「そ、涼しい。わたし、熱いの大嫌いだから。」  そういうと彼女は無言の圧をかけてきて、私に再び窓を開けさせる。僅かに雪が教室に入り込んできた。  それはとても、幻想的で…  「なに撮ってるのよ」  そう、彼女に右手で首を抑えたまま言われ、私は手に持つカメラのシャッターを何度もきっていたことに気がつく。  しまった、肖像権には気を付けていたはずなのに…  いつもはしないのに、きっとそれ以上に幻想的だったのだろう。  「あ、ごめん。綺麗だなって思って。写真撮られるの嫌だった?」 「いや、嫌っていうか…」  その子は、少し照れたような、それでいて困ったような顔をした。さっきの強気な態度から一変して、しきりに頬を掻く。その顔があまりにも自然で絵になりそうだったので、私はもう一度シャッターを、今度は意図してきった。
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