外を視る

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 …綺麗なその子は『奏』と名乗ってくれた。  そして、おかしな発言が多い少女であった。  『何年もここにいる』だとか、『雪の気持ちがわかる』だとか、『ずっと鉄の鎖が取れない』みたいな詩的表現もしてくる、不思議な人である。  私の席の隣に奏は腰かけ距離が近づくと、冬の冷気が感じられる。どれだけ窓の近くにいたんだろうか。  「寒くないの?」 「寒くないわけではないよ。けど、熱いのが嫌だから。」 「ふうん?」  確かに、奏の位置は暖房が当たりにくい、ハズレ席と呼ばれる場所ではあるけど…それを当たりのように扱うのを見ると、なんだかハズレ席が羨ましく見えてきてしまう。それがなんだか可笑しくて、少し笑みが溢れてくる。  「あはは、奏って本当変ってるわね。私の友達と良い勝負よ」 「へえ、『澪』には変わり者の友達がいるんだ?」 「まあね、まあそこもその子の長所でもあるんだけど。」 「ふうん、会ってみたいな」  奏はどこかと奥を見て呟いた。  私の中で、これほどまでに短期間の中で会話が楽しいと思ったことは本当に珍しい。  不思議なことに、私は奏ともっと話したいと思ったんだ。話したりない、ということだ。  「なら、今度の放課後理科室に来なさいよ。ふふ、いつもクラブの拠点だからさ。」 「…………ん、またいつかね。」  口約束でも、結構嬉しいものだな。  と、そこで時計の針を見る。もう十分も話し込んでいることに気がついた。そうだ、まだこの質問はしてなかったな。  私は寒さで震える体をマフラーでカバーしつつ、依然として寒そうじゃない奏に訊ねる。  「そういえば奏は何してたの?」 「クラブの話?私は演劇。でも裏方がほとんどだったな。」 「そうなんだ。でもそうじゃなくて、何でここにいたの?ってこと」 「それは私のクラスだから…」  嘘だ、このクラスは私のクラスだ。彼女はいない。  奏はそこで失言したかのように目を見開き、両手で口を抑える。  その時、不意に包帯が大きく緩んだ。彼女の首を初めて見て、そして私も目を剥いた。  「いやっ、と、隣のクラスでね?それで、間違えたっていうか…」 「隣のクラスにもいなかったと思うけど…」  慌てて奏は弁明するが、もう私にはどうでもよくなったいた。数秒前までは不思議だったことも、今はもうそんなでもない。  奏はすぐに、それを隠す。  しかし私ははっきりと見た。首元をぐるりと一周した何かの跡を。所々途切れてはいるが、細い一本の跡はまるで不自然にあった。それは複雑かつ規則的な傷で、本物は見たことがないけど、これは…  「痛そう?」 「痛そうっていうか…」  まるで首に縄をかけたようだ、とは言えなかった。  「…隠したいなら、これ貸すよ」  私は鞄からマフラーを探し当てると、さっとこの手に持つ。  「これくらいなら暑くならないでしょ」  しかし、奏はさっとそれを拒む前に、私はタオルのように奏に投げる。  これは私にとっても意味のある行動だった。    常識的に考えて、仲の良い相手を『幽霊』だと疑るのはあり得ないことだろう。  しかし、体質的に視えてしまうのだから仕方がない。  そしてその疑いは、真に的を射ていた。  マフラーは彼女に一切触れることのなかったように、椅子の木の板に落下した。マフラーの片方が床について、汚れを少しだけ絡めとる。  私はすぐにマフラーを拾う。  開けていた窓から冷気が舞うので、私はマフラーを叩いてから自分の首に巻き付けた。
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