外を視る

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 「…ごめん」  奏は、心底悲しそうに呟く。  「別に。それが悪い訳じゃないし」  驚いたけど、と付け足すと、奏はホッと息をついた。  「変な人。」 「人じゃない人に言われたくないわね」 「って、人って認識してるじゃないか。」 「だって、どっかでは奏も人だし」 「主張がややこしいね」  奏はどこか嬉しそうに溜め息をつく。まあ、彼女が人か人でないのかはこの際関係ない。  「で、奏。これからどうするの?ずっとこの教室に住むわけ?」 「え?いや、私いつもはここにいないの。寒い日の夜以外は…寝る時とかは、私の体まで戻ってるんだ」  幽霊って寝るんだ…  私はまた予備知識を手に入れつつ、今更この幽霊の処遇について考えてみる。  寒い日以外はいないのなら、他のだれにも迷惑はかからないだろう。だったらこのまま放置しとこうか。  …けれど、幽霊って成仏したがるのがセオリーじゃないか?  何年もいるのなら、特に頼れる人もいなかったのなら、このままずるずると教室にいても大変なんじゃないか。  「鉄の鎖が取れない…だったわね?もしかして、未練ってそれだったりする?」  聞いた中で思い当たるのはこれしかない。  案の定、奏は目をそらして頷いた。  私は、鞄を手に持つ。  「待って!どこ行くの?」 「貴女がそれを落としためぼしい場所があれば教えて。」 「でも、外雪だし、そんな迷惑かけられないよ。他人でしょ」  奏はこの行動を心底意外だと言うように眉を潜める。  何を今更。私は心の底から嘲笑った。申し訳ないけど、私は難しそうなゲームに対する好奇心には勝てないのだ。それに、奏はもうともだ…いや、それは気恥ずかしいな。数十分いくらで友達とは、言い難い。うん、私はあくまで好奇心のためにやるだけだ。あとほら、数奇な出会いだし。その記念にっていうか。  私は咳払いする。  「一期一会だし、協力しても良いでしょう?それに、私の知的好奇心は止められないわよ」 「…………あの、澪」 「何?」 「本気?」 「本気」 「…………」 「じれったいなぁ。何か手伝われて困ること、あるの?」 「いや、ない。」 「じゃあ決まりね。」 「…………あの」  今度はなんだ。私は少し鬱陶しく感じて、私は本気だということを今一度教えようとする。  「あのね、奏。私は…」 「私は雪を知っている。だから、私が言ったら、絶対家に帰ってね」 「え?」 「約束ね」 「わかった」  奏の気迫が凄くて、私はやや早く頭を振る。奏はそれに満足したように、私の前で手招きした。  なんだ、私に協力してほしくない訳じゃないんだ――  人間のようなのに、早さは異常だった。  「じゃあ、早く来て」 「うん」  私は右に首をかしげながら、それでも奏を追いかけた。…というか、せっかくなら置いていこうとしなくて良いのに。  私は廊下を走ったものだから、すれ違った先生に目を丸くされた。あの小太りの先生、演劇部の顧問だし、今度奏について聞いてみようかな。
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