外を視る

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 「そろそろ、帰らないと」 「もう?」  奏は小さく頷いた。  ここで駄々をこねれたと思う。もう少しここにいれたと思う。それでも私は、大人しく奏に生涯の別れを告げようとしていた。  奏の真剣な眼差しに、答えないとと思ったんだ。  「お別れだね」 「…………そう。」 「本当に助かった。ありがとう。」 「……うん。なら良かったや。」  奏はふふ、と笑顔を浮かべると、最後に私にこう忠告した。  「今日はもう寄り道せずに帰って。」 「え?」 「雪の気持ちがわかるの。ね?」 「……奏は、成仏できそう?」 「うん。でも別れ際は、少し恥ずかしいから。」  ここから立ち去れ、と言わんばかりに奏は後ろを向く。私は最後に、「楽しかったよ」とだけ告げた。
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