外を視る

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 そのままフッとどこかへ行った奏に気づくと、私はさっさと山を降りた。途中、何度も写真を撮りたくなったが、一度集中すると雪と長居してしまいそうだったし。  麓で人とすれ違う。  話しかけられたから、遠回しに危ないと忠告したものの、その人は真っ向から私を否定した。暗がりで声もマスクで籠って空いては誰かわからなかったけど、それは向こうも同じなのかもしれない。  向こうからすれば、私は赤の他人で、信頼のない人間だ。  私も、奏のことは信頼するに足らない人物だった筈だ。友人と呼んだものの、ただの知り合いとでもいうべき人だ。それでもなんというか…  「少し寂しいものね」  少しだけ、ほんの少しだけだけど。  …きっと、さようならって言えば、もっと辛かったんだろうな。  私は手袋を外し、ポケットのチョーカーを取り出す。降りつもる雪を被って冷たくなっていたそれは、鉄だからか、まだ大変冷たかった。そこらの雪よりもだ。  「熱伝導…」  ある意味、数年ものの冷たさともいえるだろう。  私は冷えきった体を更に冷たくさせまいと再びポケットにしまうと、そこでふと、思い出した。  首を閉めた縄の跡、あれってそんな見るもんじゃないけど…痕って、所々途切れるものなのだろうか。  誰に言うでもなく、私は潰れた雪を踏みつけながら呟いた。  いや、正確にはポケットのただのチョーカーに囁いていた…のかもしれない。  「こんなForecastは当たってない?あの痕はチョーカーによる火傷で、本当の彼女の死因は別にある…とか。」  外が寒いなら、家は暖かくする。尚且ついつでも付けていたなら、チョーカーで火傷するタイミングだって、あるにはある筈だ。それに、そもそも火傷ではなく長く装着した痕だったというのもあり得る。  「……まあ、いつか調べようかしら……いつか。」  それまでは、不思議な友達だという認識でいいだろう。    家に帰ると、私は窓から外をみる。  それはやっぱり、いつもと変わらない景色があった。あの山が見えないのが残念だ。
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