外を視る

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 「はあ、はあ…ここか?どこだ?」  ――こいつは、毎年雪が降るとやってくる。  チョーカーと拙い記憶を頼りにやってくる。  「あれ。ここでもないのか?おかしいな、こんな山奥でチョーカーを取る奴がいるのか?それとも鳥か…」  ブツブツとくぐもった声で呟いてるのを、私は間近で見上げてやった。  ふふ、迷えばいい。唯一の手がかりを、私な大切なものを失って…迷って、迷って、迷って…  すれ違い様、気付かなかった癖に、今は必死に探してさ。どれだけ私の事隠したいんだって話だ。気持ち悪い。  「寒っ…!」  こいつは呟いて、身震いした。  全く、私は知らない間に涙ながらに燃やされ終えていたというのに、寒いことに不満なんて、どれだけ贅沢なんでしょう。熱くも寒くも感じない私だけど、未練から熱いのは嫌いになってしまったのに。  それからしばらくして、ついにそいつは涙ながらに言い訳をくべていく。  「違う、俺は悪くない…俺はただ、奏のチョーカーを少し借りただけだ、悪戯で、大事なものをちょっと山に隠しただけだ!お前が、俺の気持ちに答えないから、少し意地悪しただけだ!それなのに、山で事故死だなんて、そんなの俺のせいじゃない!」  それで、怖くなったこいつはチョーカーを山に放置したまま、ついに返さずに…臆病なこいつは、ふと気まぐれに、心を落ち着かせるために、罪の権化はまだ山にあるか確認する。  ずっと変わらない。ずっと変わってない。  私の全てだった人は新しい人生を歩みだしたそうだ。  母さんは縋る人もなく寂しい思いをしているそうだ。  やがて――やがて言い訳は、私に対する愚痴に変わる。数年振りに降りつもった雪が、彼に当時の事を思い出させているのかもしれない。  「だいたい、演技のいろはを教えたのは俺だ!なのに何故、何故…」  そろそろかな。  私は雪の上で、雪の機嫌を感じとる。ああ、もうすぐだ。  澪を帰らせておいて、良かった。  この雪は、もう持たない。
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