音戸さんの猫カフェ

4/13
前へ
/13ページ
次へ
 しかし"ねこ"は、 「夏目(なつめ)漱石(そうせき)ですね!私の愛読書です」  と、どこか嬉しそう。そして、もはやどう反応していいのか分からず呆然としている私に、1枚の名刺を差し出して説明してくれた。 「どうぞ。私の名刺です。音楽の"音"に戸棚の"戸"と書いて、"音戸(ねこ)"と読むのですよ」 「へぇ……。変わった名前……」  気づけば普通に会話していた。たぶん、いや絶対、小学生の頃に見た、猫の世界を訪れるアニメの影響だ。  懐かしいなー……と思いながら、ぼんやりと目の前の音戸さんを眺めていると、その凛とした佇まいが、そこに登場する、シルクハットと燕尾(えんび)服が特徴の紳士猫にどことなく似ているような気がして、慌ててぱっと目を逸らした。 ――いやいや、そもそも毛並から違うし……。てかなんで、ヒロインみたいな初心(うぶ)な反応してんのよ。いい歳した大人なのに……。  次いでに、あのお姫様抱っこのシーンも思い出してしまい、ぶんぶんと勢いよくかぶりを振る。  するとその時、にゃ~……とか細い声音が聴こえたかと思うと、ジーンズ越しの足首に何かが擦り寄せられる気配がした。 「ん……?」  一体何だろうか。不思議に思い足元を覗き込むと、そこには1匹の子猫がいた。三毛猫だ。  可愛い~と抱き上げようと手を伸ばしかけ、はたとあることに気付く。 ――……そうだ。ここ猫カフェだったんだ……。  目の前の猫に圧倒されて、すっかり忘れていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加