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しかし"ねこ"は、
「夏目漱石ですね!私の愛読書です」
と、どこか嬉しそう。そして、もはやどう反応していいのか分からず呆然としている私に、1枚の名刺を差し出して説明してくれた。
「どうぞ。私の名刺です。音楽の"音"に戸棚の"戸"と書いて、"音戸"と読むのですよ」
「へぇ……。変わった名前……」
気づけば普通に会話していた。たぶん、いや絶対、小学生の頃に見た、猫の世界を訪れるアニメの影響だ。
懐かしいなー……と思いながら、ぼんやりと目の前の音戸さんを眺めていると、その凛とした佇まいが、そこに登場する、シルクハットと燕尾服が特徴の紳士猫にどことなく似ているような気がして、慌ててぱっと目を逸らした。
――いやいや、そもそも毛並から違うし……。てかなんで、ヒロインみたいな初心な反応してんのよ。いい歳した大人なのに……。
次いでに、あのお姫様抱っこのシーンも思い出してしまい、ぶんぶんと勢いよくかぶりを振る。
するとその時、にゃ~……とか細い声音が聴こえたかと思うと、ジーンズ越しの足首に何かが擦り寄せられる気配がした。
「ん……?」
一体何だろうか。不思議に思い足元を覗き込むと、そこには1匹の子猫がいた。三毛猫だ。
可愛い~と抱き上げようと手を伸ばしかけ、はたとあることに気付く。
――……そうだ。ここ猫カフェだったんだ……。
目の前の立つ猫に圧倒されて、すっかり忘れていた。
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