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そこでふと、その"活動団体"、"保護猫"という言葉に親近感を覚え、カウンターに身を乗り出した。
「あの、実は私も保護猫を引き取る活動をしているんですよ。本業はトリマーなんですけどね」
そう言いながら、ショルダーバッグからガサゴソと名刺を取り出し、「柚木莉心と申します」とおもむろにその手――じゃなくて前足に差し出す。
音戸さんは、まるで吸盤のような、ぷにぷにとした桜色の肉球で名刺を携えながら――。
「莉心さん、ですか。可愛らしいお名前ですね」
にこり、とこれまた爽やかに微笑まれてしまい(※猫)、恥ずかしくなって目を伏せる。
「はっ!すみません。これが所謂、セクシャルハラスメントでしたね……。申し訳ございません」
そこで慌てたように、音戸さんは両耳をピンと立て、しかしすぐにシュンと伏せると、深々と項垂れるように頭を下げた。
それを見て、私も慌てて「あぁ、違うんです!ごめんなさい!」と両手をぶんぶん振って弁明する。
「別に言われて嫌だったわけじゃなくて……というか、むしろ嬉しくて……でもなんか恥ずかしくて、どう反応していいのか分からなかったんです……。こちらこそ、すみません……」
静々とカウンター越しに頭を下げる。
セクハラの正式名称って、そういえばそんな名前だったな、とか思いながら。そういえば、猫の世界にもセクハラってあるのかな、とか思いながら。
「そうだったのですね……。それは良かったです……」
私の言葉を聞いて、ほっと胸を――じゃなくてお腹を撫で下ろす音戸さん。
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