音戸さんの猫カフェ

9/13
前へ
/13ページ
次へ
「その元飼い主の方は、お若いカップルではありませんか?女性の方が、すらりとしていて茶髪のロングヘアで、いつもタイトなミニスカートを穿()いていて。男性の方は、いつも髪をワックスでガッチガチに固めていて、なんかもう、とにかく色々バッキバキで……」 ――ん?んんん?  なんか後半にかけて説明がわやわやになってきたぞ……と思いながら音戸(ねこ)さんの方を見ると、その綺麗な黄金色の瞳と前歯を剥き出しにして(うな)っていた。そこには明らかな怒りを感じる。  私は慌ててカウンター越しに、その両肩(?)を押さえて落ち着かせようと試みた。 「だ、大丈夫ですか、音戸さん……。とにかく、一旦落ち着きましょ。確かに仰る通り、お若いカップルの方でした。派手で目立っていたので、私もよく覚えています。でも、そのことと捨てられた猫ちゃんのことが、音戸さんに、何か関係があるんですか……?」  こんなにも動揺して怒りを(あらわ)にするなんて、きっと何か訳があるはず。  もしかしてその猫ちゃんは、音戸さんにとって大切な人――じゃなくて猫だったのかな。  そう思って少しだけ胸の奥がチクリとした気がしたが、その痛みは次の音戸さんの言葉によって、すぐにどこかへ追いやられた。 「おそらく……いや、間違いなくその猫は、ユキ――私の妹だと思います」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加