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タカユキの場合
冬が来て、ぼくは仕事にありついた。
朝いつものようにジュンコに金をもらおうと手を伸ばしたら悲しい顔をされたので心機一転働くことにした。だが働くといっても、あてがあるわけではない。仕方がないので、スポーツ新聞の求人欄をみたら、チラシ配り日給一万四千円というのがあって、これはおいしいと電話をかけたら、すぐに面接にこいと言われた。
ジュンコは「よかったね」と財布から五千円をさしだした。交通費に五千円は多すぎる。それでもいつものように受け取って「いってきます」と逃げるように家を出た。
店に着くと予想以上にたくさんの男が集まっていた。店内は蛍光灯が本番前を待つ舞台のように安い作りをあらわにしていた。赤いカーペットは染みで汚れ、白いテーブルの天板は角が欠けている。酒と化粧のまざったにおいがしみついて臭かった。店の奥にはステージがあった。あそこで女たちは踊るのだろうか。ひらひらとくるくると。広川と名乗る男がやってきて応募した男たちを集め「七時から三時までビラを配って八千円。客をつかまえたら一人あたま千円」と言った。女たちが疲れた顔で入ってくる。男たちの誰かが「じゃあ新聞の話は嘘じゃないですか」と文句を言うと「だったら帰れば」と広川は歯を見せて笑った。
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