タカユキの場合

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 携帯電話が鳴った。またジュンコから『雪だね。おしごと終わったら車で迎えにいくよ』とメールが来た。「いくぞ」と誰かが大声をあげた。びっくりして立ち上がった拍子に缶コーヒーをこぼしてジャンパーを茶色の液体がぬらした。「あ」と声が出て、持っていたチラシもぬらした。「すみません」と声をかけるまもなく、男たちは酔っ払いに声をかけていた。汚れたジャンパーをチラシで適当にふきとって自販機の横のゴミ箱の中に缶コーヒーごといっしょに捨てる。 「おそいぞ、新入り。おめえが帰ってこないから俺が漏れそうだろ、バカ」  代わりに看板を持っていたオヤジが走っていった。乱暴に渡された看板を両手でしっかり握って、また叫んだ。 「そんな調子じゃオケラだな、にいちゃん」と隣の店の呼び込みが笑った。アルコールと小便がまじったすえた臭いがした。男はヒヒヒと下卑。  雪はますます強くふってきて、道を白く染めた。
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