タカユキの場合

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 遅れて入ってきた女が「おはようございます」とあいさつをした。店内にいた女たちは誰もあいさつを返さない。そういえば誰もが無言で入ってきていた。広川が「おはようマーリー」と言った。マリでもなく、マリーでもなく、マーリーというのが何か間の抜けた響きがした。  マーリーは広川に「おはようございます」とあいさつし店の隅に他の女たちと離れてひとり座った。そのときマーリーの顔に笑みが浮かんだように見えた。不機嫌な顔をしている他の女たちと対照的で落ち着かない違和があった。  服を脱ぐとき恥ずかしそうに男たちに背を向けたのはマーリーだけだった。痩せた薄い身体。丸めた背中に骨が浮き出ている。鏡にうつった胸は小さく白い。すぐにダンサーの身体だとわかった。こんなところで金のために身体をうるような女には見えない。彼女はちらちらとぼくらのほうを見た。おそらく広川を見ようとしたのだろう。だが広川はマーリーにはもう関心がなくなったかのように男たちにポン引きの仕方を教えていた。 「とにかく声をかけろ。いいな!」
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