タカユキの場合

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いい子いますよ! どうですか、おにいさん、おあそびのほうは! おっぱいどうですか! おっぱいいっぱい夢いっぱい! ぼくは「いいこいますよ!」と叫びながら逃げ出した夜を思い出す。 あの日も雪が降っていた。電車に乗った。そのまま降りるべき駅で降りなかった。寝過ごしたわけでも、わざとでもなかった。降りられなかった。それだけだった。そして何もかもがどうでもよくなってしまった。終点で降りた後、反対方向の電車にのって帰ることができなかった。まるでそこに見えない壁があってぼくを阻んでいるようだった。魂が鷲掴みされ引っ張られ、改札を出た。雪が降っていた。ふらふらと町を歩いているとポン引きに声をかけられた。オニイサン、オアソビドウデスカ。ユキモフッテイルコトダシ、アタタマリマセンカ。あのときポン引きの言葉がカタカナに見えた。いい子いるかい、ときいた。ポン引きはモチロンと言った。
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