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離婚が成立して5年後、私が7歳で失くしたパパの手が誰のモノになったのか知る時が来た。
ママの親友だった立夏おばさん。
彼女の息子が、その手の主になっていた。
知ったのは偶然だ。
離婚してから疎遠になっていた立夏おばさんを街で見つけた私は、懐かしさから声をかけようと近寄れば、向かいから見知った顔の男性、忘れもしない、夢にまで見るほど恋しかった手を持つ男性が、私より先に立夏おばさんを呼んでいた。
嬉しそうに。
穏やかに笑いながら。
ママ、と。
隣りに、私より少し小さな男の子を引き連れて。
世界が止まった気がした。
全てが一瞬で色褪せる。
なのに、立夏おばさんと男の子と見知った男性だけが鮮やかに色付いて、私の目に映り込んでいる。
見たくもないのに。
知りたくもなかったのに。
なぜか、目が離せなかった。
こんな現実があっていいのだろうか。
流れゆく景色に埋もれることもなく、はっきりとした輪郭で浮かび上がる光景。
急速に冷えいく感情が全てを悟る。
ママはパパだけじゃない。
親友にまで裏切られていた。
親切で優しかった立夏おばさんは、表と裏の顔を上手に使い分けていた。
陰でコソコソと企み、私やママの知らぬ間に、パパを奪った酷い人。最低な人。
ママがあんなに取り乱していた理由が分かった。
騙されたと、泣いて叫んでいた理由も。
パパはママじゃなく立夏おばさんを選んでいた。
ママの産んだ私じゃなく、立夏おばさんが産んだ息子を選んでいたのだ。
理解した途端、心の奥底に沈み込ませていた大事な記憶が、温かくて素晴らしく幸せだった頃の記憶が、真っ黒に塗り潰される。
要らなくなったのだ。
覚えていたら、その記憶に自分が毒されてしまうような気がして。
偽りに喜ぶ愚か者。
そんな、汚らわし存在に成り果てるのを自己防衛たる本能が未然に防いだのだ。
無意識に。
けれど必然に。
真の家族が偽物の家族だった私に背を向ける。
3人で寄り添い歩く姿や、息子である男の子を挟んで並び立つ姿は、私の中にあった淡い未練や希望を打ち砕くには充分だった。
いつか、また。
昔みたいに。
元に戻れる夢を見ていた。
悪い夢だったと、笑い飛ばせるはずだった。
でも、これが事実。
目に移る3人が私に教えてくれた現実だ。
大人の事情なんて子供には分からない。
愛や恋もまだよく分からない。
ただ、パパにとって私やママが必要じゃなかったように、立夏おばさんにとってもママや私はパパ以上の存在ではなかった。
友情より愛情。
天秤にかけた重さに私とママは負けたのだ。
激しい憎悪が込み上げる。
全身が震えるほどの怒りに染まっていく。
絶対に赦さない。
赦してはならない。
僅か12歳にして復讐を誓った私は、人混みに紛れる3人の背をずっとずっと、ずっと睨み続けていた。
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