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やることがなくて暇だった流は身軽に木の上に登った。枝に足をかけ、世界を反転させる。ぶらぶらとぶら下がって、逃げていく泥棒たちと追いかける警察たちの姿を眺める。
「……暇だ」
こんなに暇なら、一冊くらい本を持ってくるんだった。
「…加勢は大丈夫かね」
イケメンだし、どうやら有名人らしい。親衛隊、らしき集団に追われていたもんな。
「ま、大丈夫だろ。運動神経めっちゃいいし」
ぶらぶらぶら。
世界が反転している。
「……おい」
下から声が聞こえた。
「え?」
鋭い目つきに長い学ランを纏う男が、不審者を見るような目で流を見ていた。
腕にはトンファーがありました。……えっ?雲雀さんっすか?
「リアル雲雀さん」
「雲雀?何言ってんだ。ーーお前、何してるんだ」
「なにって、逃げてるんです」
「それにしては呑気そうにしてるな」
「だって暇ですし」
「……追われていないのか」
「そうですね。オレを追いかける物好きはいなさそうです」
助かったわ。
え、容姿がいいはずだろって?
ふふふ。
実はな、
「そうだろうな。その顔じゃ誰も追いかけないだろう」
そう、今オレは狐の仮面を付けているのだ。絶対オレの見た目じゃ追いかけられるに決まっている。平和に過ごしたいと考えた結果、仮面をつけることにした。
「仮面を付けちゃダメっていうルールなかったですよね?」
「それはそうなんだが」
「察してくださいよ。オレは平和に過ごしたいんです」
「言動からして、お前、外部生だな」
「あ、はい」
雲雀さん(仮)は考え込む仕草をした。考える様子までもイケメンかよ。
「今年に入ってきた外部生は2人だけだ」
あ、そうなの?
「そのうちの1人はやかましかった。お前はそいつじゃない。
鏑木流、だな?」
名前を当てられた。怖いわ。何、この人。
「え…こわ…」
「聞こえてるぞ」
「すみません。でも、生徒の名前を把握してるのすごいですね」
「当然だ。風紀委員長だからな」
「あっ、風紀委員長でしたか」
「でも降りて来ないのか、お前」
「えっ、降りた瞬間捕まえるでしょ?」
男は深いため息を吐いた。
「ちゃんと説明聞いていなかったのか?風紀委員会はパトロールのため不参加だ」
「あ、そうでした」
安心した流は綺麗なフォームで着地した。その運動神経の良さに男は目を見開いた。
「では、オレは引き続き逃げます。パトロール頑張ってください」
そう言って、流はこの場を後にした。
1人残された男は「あいつは使えそうだ」と不敵な笑みを浮かべた。
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