1.事実は小説より奇なり

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 やることがなくて暇だった流は身軽に木の上に登った。枝に足をかけ、世界を反転させる。ぶらぶらとぶら下がって、逃げていく泥棒たちと追いかける警察たちの姿を眺める。  「……暇だ」  こんなに暇なら、一冊くらい本を持ってくるんだった。  「…加勢は大丈夫かね」  イケメンだし、どうやら有名人らしい。親衛隊、らしき集団に追われていたもんな。  「ま、大丈夫だろ。運動神経めっちゃいいし」  ぶらぶらぶら。  世界が反転している。  「……おい」  下から声が聞こえた。  「え?」  鋭い目つきに長い学ランを纏う男が、不審者を見るような目で流を見ていた。  腕にはトンファーがありました。……えっ?雲雀さんっすか?  「リアル雲雀さん」  「雲雀?何言ってんだ。ーーお前、何してるんだ」  「なにって、逃げてるんです」  「それにしては呑気そうにしてるな」  「だって暇ですし」  「……追われていないのか」  「そうですね。オレを追いかける物好きはいなさそうです」  助かったわ。  え、容姿がいいはずだろって?  ふふふ。  実はな、  「そうだろうな。その顔じゃ誰も追いかけないだろう」  そう、今オレは狐の仮面を付けているのだ。絶対オレの見た目じゃ追いかけられるに決まっている。平和に過ごしたいと考えた結果、仮面をつけることにした。  「仮面を付けちゃダメっていうルールなかったですよね?」  「それはそうなんだが」  「察してくださいよ。オレは平和に過ごしたいんです」  「言動からして、お前、外部生だな」  「あ、はい」  雲雀さん(仮)は考え込む仕草をした。考える様子までもイケメンかよ。  「今年に入ってきた外部生は2人だけだ」  あ、そうなの?  「そのうちの1人はやかましかった。お前はそいつじゃない。  鏑木流、だな?」  名前を当てられた。怖いわ。何、この人。  「え…こわ…」  「聞こえてるぞ」  「すみません。でも、生徒の名前を把握してるのすごいですね」  「当然だ。風紀委員長だからな」  「あっ、風紀委員長でしたか」  「でも降りて来ないのか、お前」  「えっ、降りた瞬間捕まえるでしょ?」  男は深いため息を吐いた。  「ちゃんと説明聞いていなかったのか?風紀委員会はパトロールのため不参加だ」  「あ、そうでした」  安心した流は綺麗なフォームで着地した。その運動神経の良さに男は目を見開いた。  「では、オレは引き続き逃げます。パトロール頑張ってください」  そう言って、流はこの場を後にした。  1人残された男は「あいつは使えそうだ」と不敵な笑みを浮かべた。  
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