1.事実は小説より奇なり

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 ふーんふんふーん。  楽しそうな鼻歌を歌いながら、ベッドの上で寝転ぶ綺麗な顔をした男、鏑木流(カブラギリュウ)。  流はとある本を読んでいた。  夏目漱石の『こゝろ』である。  「いやぁ、先生かっこいいわ」  恍惚とした表情で文章を指でなぞっていく。彼の興味は本しかない。本さえあればいい。それくらいの本好きであった。  現に彼の部屋は本で溢れていた。壁一面は本棚になっており、天井までが本棚となっている。梯子が当たり前のように設置されてある。  「“ 然し……然し君、恋は罪悪ですよ”」  『こゝろ』の名言である文章を声に出してみる。    いやぁ、何度読んでもこのセリフはかっこいいわ。…ちゃんと恋愛したことないから偉そうなことな言えないけども。  ただ、これだけはわかる。  恋によって人間は変わることもある。良くも悪くも恋は人間を変える。そんな人間をオレは知ってるーーー。  バンッ!!!!  珍しく感傷に浸っていたところ、部屋の扉が乱暴に開けられる。  「!?!?」  思わず本を落としてしまうところだった。  「え、何?兄貴」  さっき、恋によって変わる人間を知ってる、って言ったよね?それ、兄貴のことなんだ。  「聞いてくれ」  「断る」  「そう、あれは半年前のことだったーーー」  「え、待って、話し始めるん??」  めんどくさそうにする流のことなんかこれっぽちも気にしていないのか、そのまま兄貴こと、鏑木大智(カブラギタイチ)は話し始めた。    「俺は半年前、女神と出会ったんだ」  「……」  「そんな冷たい目で見るな。仮にもお前の兄だぞ」  「…で?」  「弟が冷たい。ま、いいや」  俺は自由を愛する男でさ、時間さえあれば旅に出た。国内でも海外でも。  自由は最高だぜ?  そんな俺を変える出会いがここ、日本であったんだ。  「早く本題を言え」  苛立ちを隠せない流。
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