猫に至る病

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『などと人間の頃には散々脅されたわけなのですがー』  日の当たるベランダでお尻に生えた二本の尻尾がゆらゆらと揺らめく。 「そう言うでない。あれはあれで嘘偽りなく事実であったろうに」  “猫神”様が隣に座ってアイスを舐めている。頭の上と両肩と膝の上にそれぞれ猫が乗っている。 『まあそうなんですけど』 「猫又となったのは、まあ妾の影響もないとは言わぬが概ねお主の人徳、いや猫徳の為せる(わざ)といえよう」  猫としての生を受けてから三十年が経っていた。十年ほど前に猫又へと成り上がった私は尻尾の一本を隠して過度に長寿な老猫として未だにしれっと生きている。 『絶対影響あるでしょ。それにしてもまさか知性を取り戻して孫の顔まで見ることになるとはねえ。これ今度は私より彼のほうが先に死ぬんじゃないです?』 「うむ。お主がその気になれば末代まで眺めて過ごすこともできるぞ」 『人生と反比例じゃ済まない規模で猫生が伸びちゃってクラクラするわね』 「まあ猫又なんぞ生きながらにして死んどるようなもんじゃし、好きなときにその生を終えればよかろう。自害などせずともお主が本当に終わろうと思えばその命は静かに輪廻へ還ろうぞ」 『“猫神”様そんな適当でいいの?』  私の疑問に彼女は肩を竦めて薄ら笑みを浮かべた。 「ええんじゃええんじゃ。だって妾、猫の神様じゃもの」  その言葉には、なるほど説得力があった。
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