2話 胃袋掴む者恋路を制す

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2話 胃袋掴む者恋路を制す

0133bea5-36cc-4632-8add-a0d5110b2f1e 「押しかけ女房?に処女狙われて困ってますってか!?そんなの認めなーい!!!」 突如現れた4人組が男でもあり女でもあり、しかも私のバージンをみんな狙っているなんて…受け入れ難い現実… 「母さんに連絡しよ…無駄だろうけど…」 今までの出張のときも、連絡が取れないのはよくあることだったので、期待はしていない。 スマートフォンから電話をかけてみるものの、やはり出ない。 「まあ、真咲さんはそうヤワじゃないから。心配しなくても大丈夫だ」 そう雪が穏やかに微笑む。 心配なのは確かだが、手も足も出ない。 「みんなは、母さんみたいに戦いに出なくていいの?」 「俺たちの一族は、大抵あちこち戦いに出てるよ。 でも俺たちは、菫ちゃんのボディーガードしつつ、バージン奪って力を取り戻すのが仕事〜」 琥珀さんのウインクが飛んでくる。これまたウインクが似合うのだから嫌になる。 またもや話が振り出しに戻ってしまった。  「真咲さんは律さんを探しに行ったんだよ。手がかりが分かってね」 「え!父さんの居場所が分かったの?それも妖族に関係が?」 「おそらく戦闘になったんだと思うよ。生存は確認されたみたい」 茜が打って変わって真剣な顔で説明する。 紫藤律は私の父親で、母さんと同じく一級魔術師だが、ニ年前行方不明になっていたのだ。 それ以来二年間母さんと二人で暮らしていたが破綻してきたので、(食事面で)4人がやってきたというのなら確かに無理はないかもしれない。 「法律管理士になろうっていう人に、そんなセクハラかましてていいわけ?!」 「…大学生で弁護士にツテがあるわけじゃないだろ?」 「うっ…」 「…それに“お母さんは早くに結婚したのに、私には相手が見付からない”って度々嘆いていたと…」 「や、やめーーーーい!!」 急に饒舌に詰め寄る珊瑚に、私は耳を真っ赤にして静止した。 「あれー菫ちゃん、焦ってるんだ?」 「まあ、真咲さんがあれじゃあ焦るよな…」 「俺はずっと姫に結婚申し込みにいくつもりだったよ〜?」 「…クールなフリして、実は内心興味ありありと…」 「勝手なことばっか言うなーーー!!」 4人ともクスクスニヤニヤ笑いながら好き勝手言いまくる。 茜に至っては愛が重すぎる。 「私は、産まれたときからの幼なじみと結婚なんてロマンチックだなあ、くらいのニュアンスであって、決して焦ってなんか…」 「「「「ほんと?」」」」 無口な珊瑚まで一緒になってハモった。 完全におもちゃにされている。 「大体!法律管理士になったら魔術師やってる時間なんて無…」 ぐぅぅぅぅ〜 自分の意志とは裏腹に、猛烈な空腹音があたりを包んだ。 続けて4人とも楽しそうに笑ってる。 「昼にするか」 雪が微笑むと、立ち上がり台所へ向かった。 恥ずかしいくらい何もないキッチンに行かれるのは少し困る。 「…びっくりするくらい何もないな」 「私も母さんも、料理がほんと苦手でして…」 「うーん、チャーハンくらいしか無理だな。座って待ってて」 雪がてきぱきと支度を始めるので、ダイニングに座って三人に訊く。 「聞いてたけどみんな料理できるんだね?」 「俺は洋食で月水金担当、雪は中華で火曜と土曜、茜は和食で木曜と日曜ね〜」 まだ食べてもないのに、胃袋が持っていかれそうになる。 和洋中日替わりで楽しめるなんて今からワクワクが止まらない。 「あれ?珊瑚は?」 「…俺はスイーツ。時間かかるから休みのときしかできないけど」 ス イ ー ツ ! 和洋中だけでも有り難いのに、大好きなスイーツまで堪能できるなんて、こんな贅沢があっていいのだろうか? これも、私のバージンと引き換えに得るご褒美だというのか? 「ふふふ〜、みんな料理できるのはびっくりでしょ〜! こーちゃんはイタリアンレストランで働いてて、ゆっきーは高校のとき中華料理屋でバイトしてたから上手いんだよ」 「茜はなんで?」 「そりゃもう、姫と結婚するためだけに花嫁修業…婿入り修業?を幼少の頃から…」 琥珀さんにイタリアンレストランは似合いすぎているが、一人だけ愛が重すぎる人が… 「珊瑚はスイーツどんなの作れるの?」 「…まあ、なんでも?趣味だし」 な ん で も ! ニヤニヤが止まらない! 今までは、月一回デパ地下でスイーツを選ぶのがささやかな幸せだったほど、スイーツに飢えていたというのに、これからは作りたてのスイーツが休みの度に食べられる? しかも何でも作って頂けると? 「…言っとくけど、忙しいと無理だからな」 「あ、はいはい、勿論です!!」 ツンデレ男子(女子?)と思っていたのに、スイーツ男子(女子?)だったとはポイント高すぎる。 「くそー!!姫!!そんな嬉しそうな顔しちゃってえええ!!和食じゃなくてスイーツ勉強しとくんだったああ!!!」 …そろそろ茜の愛が怖くなってきた。 「ふふ、その様子じゃ、珊瑚が今のとこ一番ポイント高いのかな〜?」 「そ、そういうわけではないですけど…」 喋っている間に雪特製のチャーハンが出来上がった。できる速度まで中華料理屋並だ。 「お、美味しそう〜!!!」 「食べる前からそんな嬉しそうにされちゃ、作り甲斐があるな」 「ほんとに、姫も真咲さんも今までどんな食事してきたの?」 行方しれずになるまでは、料理は父さんの担当だった。 父さんが居なくなってから母さんも私も料理に挑戦するもののてんで駄目で、 主に出来合いの物や外食でやり過ごしていたため、健康診断では食事に気を付けろと言われていた程だった。 「残り物だけでこんな美味しそうにできるなんて…!」 ウェイパーくらいは家にあったけど、香りと見た目からして私や母さんが作るのとは違っていた。 「「「「「いただきます」」」」」 「ん〜おいし〜!!」 ご飯がベチャベチャしていない!パラパラ! ネギと卵とご飯が絶妙に絡み合う! ごま油と醤油とウェイパーの香り! 「…オーバーだな、全員本気出して作ったらどうなんだよ」 「ん〜どうなっちゃうんだろ〜!?」 胃袋を掴めとはよく言うけれど、こういうことなのか… 「そうだ、みんな部屋割りどうするの?」 我が家は3LDKで、父さんと母さんの部屋、客間、私の部屋だ。 父さんと母さんの物は少ないので、二人の物を納戸に移動させて、2部屋2人ずつ住むことになった。 「それより、客間でみんなで川の字で寝るのはどう〜?」 「5Pはちょっと…俺はやっぱ姫と二人じゃなきゃ…」 「日替わりで、菫と添い寝するのはどうだ?」 「「それだ!!!」」 「…え?」 「ぎゃーー!!」 雪の提案がなぜか勝手に話が進んでいる。 「スケジュール組もう!」 「ちょっと待って!」 目を輝かせながら名案とばかりにスケジュールを組もうとする雪を制止する。 「いや、姫、もっと俺達に慣れてくれなきゃ困るし?」 「だって菫ちゃん、いきなり刺激的なこと無理でしょ?」 「菫、心配しなくても、最初は女の方で慣らしてからだぞ?」 「…お前、一気にどうこうするわけないだろ」 4人に畳み掛けられるように説得させられる。 やはりご飯とスイーツと引き換えにバージンを奪われるのか… 「ベッド狭いしさ…」 「大学の入学祝いで、でかいベッド買ったって真咲さんから聞いてるぞ」 雪にピシャリと一挙両断される。 「…そんなに心配しなくても、俺は、いつも行かない。そんな乗り気じゃねぇ」 「えー!?珊瑚、そうなの?」 琥珀さんが残念そうに言うけど、私は内心ホッとした。 「…はっきり言うけど、スミレ様とお前は全然違う!記憶がないとかそう言う問題じゃない! 記憶と魔力が戻るかもしれない唯一の手段かもしれないから手伝うけど、俺はこんなガリ勉の色気無い女好みじゃないね!」 「は、はーーー???!!!」 出会ってから今日一番よく喋った珊瑚の言葉が、自分を拒絶する言葉で流石に傷付く。 「ちょっとさーちゃん!謝って!」 「…事実だから謝らねえ」  そう言うと、珊瑚は席を立って出かけようとし始めた。 「どこ行くの!」 「食材買ってくる。冷蔵庫何もねえし」 「じゃあ俺も荷物持ちするね〜」 琥珀さんが付いていき、少し静かになった。 雪は洗い物をしているのでソファで茜と二人だ。 「ねえねえ、今日添い寝するの俺でいいよね?俺だよね??」 「飯は俺が作ったし、買い出しは二人が行ったし、茜は何もしてないが?」 茜はこそこそ私に訊いていたつもりだったが、雪にぴしゃりと叩き斬られる。 「ぐっ…ひ、姫はどうしたい?」 「じゃんけんで決めていいよ」 いろいろありすぎて疲れてしまった。どう判断したらいいか分からない。 「珊瑚はああ言ってるけど、記憶も魔力もない事実にショックを受けているだけだから。気にしないほうがいい」 「そう!記憶や魔力がなくても姫は魅力的だよ〜〜」 茜がハートを飛ばしながら抱きついて来るが、もうされるがままだ。 「みんな、男女どっちで過ごしてるの?」 「俺たちとさーちゃんは学校があるから便宜上女の姿で過ごしてるけど、こーちゃんは両方の姿でレストランで働いてるみたい。でも隠してもないよ」 琥珀さんなら確かに女性Verでもイタリアンレストランが似合う。 「一級魔術師なのにレストランって、宝の持ち腐れじゃ…」 「放蕩息子…娘?なんだよ、こーちゃんは。フラフラしてるの」 まあ確かに、茜とは違うゆるさというか、適当に生きてる感じは確かにする。分からなくもない。 「不便はないの?」 「ダブルの力の認知度は少し微妙だから、ややこしいことを避けるために、学校や職場でコロコロ変えないことくらいかな〜?」 「戦うときはどっちなの?」 「どっちの姿もメリットあるよ。女なら軽くて素早い、男は筋肉がある分力強いとか」 確かにダブルの力を持つ魔術師はテレビ以外で初めて見た。 「使う魔術によって変わるな。力技は筋力重視だけど、水や火を操る操作系は男女関係ないからな」 洗い物を終えた雪がソファにやってきた。 「相手を洗脳させて自分のものにしちゃう魔術もあるんだよ〜?」 マインド・コントロールが魔術でもあるなんて恐ろしすぎる。茜に使われたらたまらない。 「あ、母さんと父さんはダブルの力を持ってるの?!」 もしそうだったらショックすぎる。 「なーいない!大丈夫。生まれつきの人も居るけど、俺たちの場合“転生の呪い”なんだよ」 「呪い?」 「俺達は前世で死ぬとき、生まれ変わったら、男でも女でもいいから、せめて今度は姫を護らせてと、自分自身に呪いをかけて死んだんだ。そして特異体質として生まれ変わったんだよ」 …話がヘビー級に重くなってきた。 「…せめてって?」 「…スミレ様は謎の死を遂げたんだよ、若くして。茜は耐えきれず後を追って死んだんだ。 俺とか他は結婚もしたし天寿全うしたけどな」 予想外すぎるまさかの前世の事情に言葉を失っていると、茜がポロポロ泣き出した。 「あーこいつは記憶が人一倍濃いから、昨日のことのように覚えてるんだよ」 「姫様の居ない世界など耐えられなかった…俺達がこうやってまた集まって、姫のそばに居られるだけで幸せすぎるよ」 今度はおんおん泣き出した。 「わかった、わかったから」 ティッシュを差し出し、頭を撫でてやる。 毎度同じくそのままハグされてしまう。大型犬か。 「ありがとう、今度は絶対、絶対、死なせないから…。一緒の墓に入ろうね」 「はいはい…あれ、そもそもさ、男女どちらの姿でもあると言うのなら、女に興奮しないのでは?」 だってあんなパーフェクトボディーな琥珀さんがおっぱいに興奮すると思えない。 「違うんだな!性別の垣根がないって言ったほうが正しい。最近は異性愛者だけではなく同性愛者も至ってポピュラーだろ?それに近いな」 「男のときもコーフンするけど、女のときもコーフンしてるよ〜?」 「ええっっ」 理屈は分かったけど、女の姿だからといって安心できないのか… 「菫、安心しろ。女のときに出来ることは限られている」 「ちょっと慰めになってないけど…」 そんな事言われたら添い寝はどうしよう。 「明日は朝イチで引っ越しトラックが来るから、片付けも1日がかりだな。 今日は晩まで、手荷物と真咲さんと律さんの荷物片付けるか」 「おっけーゆっきー!!」 「じゃあ、勉強の合間に手伝うね」 その後琥珀さんと珊瑚が帰ってきて、物音がうるさくて勉強どころではなくなってしまい、結局手伝った。 4人とも男女両方の服があるから、明日来る荷物では服や靴が多いと言っていた。 晩ごはんは予告通り雪の中華料理が振る舞われ、舌づつみを打っていると、添い寝の話になった。 「姫のーー!!初めての!!初めての!!添い寝!!ここは断じて譲れません!!」 「ちょっと〜何もしてないのによく言うね〜」 「勝負するか」 「…俺はパスだからな」 その後、じゃんけんでは足らずにトランプや腕ずもうなどあらゆる勝負を行っていたようだったが、途中から呆れて勉強に戻った。 そしてもうすぐ23時。そろそろ眠いが、勝負はどうなったのだろう? 「あ!姫!結局俺が一番になったよ〜〜!!!」 ちょうど茜が階段を上がってきているところだった。 …めちゃくちゃ嬉しそう。 「そう…って、男のまんまじゃない」 「あ、後でちゃんと変わるから」 しぶしぶ部屋に招き入れる。 「はあぁ…ここが姫の自室…俺が初夜を貰えるなんて、もうその事実だけで昇天しそう」 「初夜の意味がだーいぶ違いますけど!」 4人と母さんが一致団結してここまでされちゃ、だんだん、渋々、受け入れざるを得なくなってきた。 「もう!女になってってば」 「ちょっとだけ…このまま幸せを噛み締めさせて」 本日数回目のハグだが、茜の心臓がドキドキしてるのが分かる。 「ちょ、緊張してるの?」 「するよーーー!だって初めての添い寝なんて特別だもんーー!!」 恋する中学生か。 「好きだよ、姫。前世も今世も来世も、ずーっと…」 そう耳元で囁くから慌てて押し退けたら、 やっと女の姿に変わってくれた。 しっかりパジャマも着ている。 「琥珀さんと珊瑚は男と女じゃ別人だけど、茜と雪はまだ面影あるね」 「そうかな?身長とか筋肉違うから、体感は全然違うけどね」 嬉しそうに鼻歌唄いながら、主より先にベッドに入ってしまう。 「あぁ〜〜姫のベッド〜姫のにおい…エッチ…」 「もー!追い出すよ!!!」 布団を引き剥がそうとすると、逆に体を掴まれてベッドに倒れ込む。 「姫こそ、緊張してるんじゃないの?」 「そりゃ、今日出会った人と添い寝することになるとは夢にも思わず…」 やばい、向かい合ってると緊張してきた。 すると、心を見透かしたように茜が電気を消す。 「心配しなくても野蛮なことしないよ。電気消せば恥ずかしくないし、そのうち眠れるよ」 茜の手が伸びてきて頭を撫でられる。悪い気はしない。 「いろいろありすぎて疲れちゃったよね、ゆっくり休んでね」 「うん…」 「今度メイクしてあげるね?一緒に買い物も行こう!」 そっか、女のときはそういうこともできるのか… 「ね、ちゅーしていい?」 「え、ちょ!なんで!」 茜の腕の中で思わず身をよじる。 「もっと凄いことするのに、今からそんなんでどうするのさ?」 「うっ…初めて会った人とそんなことできません」 「初めてじゃないもん!前世は夫婦だったもん!!」 「え、ええー!!」 今日一番の衝撃が体を走る。 「茜は前世は男だったってこと?」 「そ。ダブルの力はみんな今世から。ね、今は女の子だし、いいでしょ?」 「理屈になってないし…なんか女でも男でも変わらなくなってきたな」 むしろ、今日初めて会ったと言うのに距離感がどんどん近くなっていって馴れ馴れしい。 一番愛が重いのも、夫婦ゆえと言うことなのか… 「く、唇は駄目だよ!付き合ってないし!」 「他ならいいんだ?」 「う、うん…」 もう諦めてくれそうにないので要求を少しずつ飲むしかない。 そしてふと頬に優しくキスされたかと思うと、おでこ、首すじに何度もキスされて思わず身悶える。 「ちょっと、やりすぎ〜!!」 「じゃあここは?」 すると調子に乗った茜に耳を舐められて、思わず突き飛ばした。 「調子乗りす…いたっ!!!」 いきなり鈍器で殴られたかのような耐え難い程の頭痛に頭を抱える。 すると、見たことのない映像が、映写機のように次々と頭に浮かんでくる。 「どうしたの?!」 「頭…痛い…それに…なんか…映像が…浮かんでくる…」 「おお!正に記憶を取り戻してるのでは?!王子様のキスでお姫様は目を覚ます的な?!」 なんて手荒な王子?のキスなんだ。 茜が頭をさすってくれるとすぐに良くなった。 「これも魔術?」 「そだよーん、ヒーリングもできるよ〜」 母さんは一応ヒーラーだから、体調悪くなってもすぐ治してくれてたっけ… 「ねね、どんな映像が浮かんできた?」 「寂れた神社と鳥居が見えて、その中に血まみれの着物着た真っ赤な髪の男の人が倒れてて、それを介抱する女の人…」 「おおお!正にそれは私と姫様の出会いのシーン!順調に記憶を取り戻してるねえ!」 茜にキスされたから、茜のことを思い出したのだろうか。 「前世、妖族に襲われて瀕死のところを姫様に助けてもらったんだよ」 「そ、そうなんだ…」 頭痛のショックで意識が遠のいていく。 「ごめんね無理させちゃったね、おやすみ…」 茜が頭を擦る手が心地良い。 こんな生活、身も心も持ちそうにないな…と薄れゆく意識の中で私はしみじみと思った。 続
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