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世間知らずのお坊ちゃんが、家を出て自活したいと駄々を捏ねている。当主として、プロの手を借り筋道を立てて、その甘い計画を頓挫させる腹づもりなのだろう。
「自活する能力の有無を、客観的に判断すればよろしいのですね」
「私にも誰にも、忖度する必要はありません。類が一人で生きていけるというなら、それでよいのです。私はあなたに公平な判断を望みます。そして、このテストの間、類を正しく世話することも」
「正しく世話、ですか」
御堂類は、今日で二十歳になると聞いている。小さな子供ならともかく、殻のついたヒヨコとはいえ成人男子の世話など、特に注意も必要ないと思われるのだが。
わずかに眉を上げた高梨に、朱鷺子は安心させるように、今度こそ明らかに微笑みと呼べる表情を浮かべた。
「どんな世話が必要なのか、あの子から説明させます。自分のことは自分でする、それが自立の第一歩でしょう」
「……持病があるのでしょうか」
「少々特異体質なだけで、至って健康ですよ」
話は終わったとばかりに朱鷺子が立ち上がる。これ以上、彼女の口からは何も言うつもりがないということだ。
健康な成人男子であるなら、共同生活をする上での注意点と言えば、食べ物の好き嫌いやアレルギー、潔癖症等の性癖くらいだろう。一生を共にする相手なら大きな問題だが、試験官として一ヵ月同居するだけだ。報酬の大きさを考えれば、どんな特異な好みや性癖があったとしても、仕事の一部と思えば受け入れられる。体質であれば、本人の意志で変えることもできないのだから、尚更だ。
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