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 夢のような一日だった。目に映るすべての風景が、いつもより解像度を増して鮮明に見えた。  勿論、これまでずっと屋敷に閉じこもって生きてきたわけではない。頼めばどこへでも連れていってもらえたし、極端な気候の土地でなければ海外に旅行したこともある。――飛行機を貸し切り、医師を含むお付きの人間をわんさと引き連れた一族の大移動を、旅行と呼べればの話だが。  頼めば、大抵のことは叶えられる。――そう、頼めば。  周囲の人間に頼まなければ、類は屋敷の外に出ることもできない。「普通の生活」の練習として、コンビニに行くのも誰かについてきてもらわなければならない。一歩外に出れば、類の体温は外気温に左右されてしまうため、夏冬は常に外部からの体温管理が必要となる。コンビニに行くといっても、実際は店の前まで車で送迎され、エアコンの効いた店内で商品を見て歩き、携帯端末で電子決済するだけなのだ。  本家の当主である祖母の意向に従い、類の意思を最大限尊重しながらも、その生活は徹底的に守られ管理されてきた。類が望んでもできないことは、その「できない」という事実から生じる鬱屈を排除するために、日常の会話からも徹底的に遠ざけられた。  今日初めて会った高梨という人は、その点で完全に異質だった。  意外にも祖母は、類の体の秘密を彼に伝えていないらしく、高梨は類に特段の興味も配慮も払わなかった。感情を窺わせない整った顔は彫像のようで、一見すると冷たく、切れ長の目の鋭さもあり少し怖い。ただ、話し掛ければ穏やかに返してくれるし、質問にも丁寧に答えてくれる。  だが、それだけだ。
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