今日のわんこ

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今日のわんこ

私の名前はアタルヤ。 猫型のロボットだ。 めんどくさいから先に言っておくけど、どら焼きは食べない。 耳もついてる。お腹にポケットもない。 そもそも普通の三毛猫の姿をしているし、メスだ。 今は井澤という高校教師をしている人間の男に飼われている。 『飼われている?・・・・・』 違う、一緒に暮らしている。 井澤と出会ったのは近所の公園だった。 井澤は週末になるとその公園のベンチで本を読んでいた。 小説・哲学書・専門書・コラム・海外文学。 いろんなジャンルの本を読んでいた。 私は本に興味があって井澤の座っているベンチに座り一緒に本を読んでいた。 「あれ?また来た、本が好きなの?変わってる猫だねぇ」 私は週末公園に井澤が来るのを楽しみしていた。 正確に言うと井澤が持ってくる本を楽しみにしていたんだけど。 井澤が読んでいる本は面白かった。 後で知ったが、井澤は東大という、この国で一番頭が良い学校を卒業しているらしい。 まあ・・人間にしてはそこそこ頭が良いのは認めてやろう。 その日井澤は珍しく恋愛小説を読んでいた。 まあ、人間の恋愛なんて興味はないが、なかなか面白い話だった。 愛しあっている二人・・・しかし頑なに結婚を拒む彼女・・・・・ 男は女に遂に問い詰めることにした。 『なんでなんだ!!なんでだよ』 『実は・・・・・』 井澤は本を閉じた・・・・・ なんで?なんで?めっちゃいいところじゃん!!!! 「にゃぁ〜」 思わず閉じた本に手をのせてしまった。 「え?気になる?ごめん笑。ちょっとトイレ行きたくなっちゃった。ちょっと待ってね。すぐ戻るから」 「にゃあ」 「あっ話がわかるのかなぁ?ごめんね、すぐもどるね」 井澤はそう言って駆け足でトイレに向かって行った。 井澤は洗った手をハンカチではなくズボンで拭きながらまた小走りで戻ってきた。 「ごめん、おまたせ。良くみるけど、首輪つけてないね・・・・野良かなぁ・・・」 「うち来る?」 「にゃあぁぁ」 「あはは、本当に話がわかってるのかなぁ」 私は井澤に飼われる・・・一緒に住むことになった。 井澤の部屋はお世辞でも綺麗だとは言えなかった。 大量の本が平積みにおかれ、万年床・・・・ 「にゃぁ・・・・」 「ごめんごめん、少し綺麗にするよ・・っていうか・・・トイレとか必要だよなぁ・・・俺猫とか飼ったことないしなぁ・・・っていうか・・・そもそもこの部屋ペット大丈夫だっけ?まあ・・いいや、怒られたら出て行こう」 井澤はそう言ってパソコンのネットショッピングで買い物を始めた。 井澤は頭が良かったがどこか抜けている部分があった。そこがかわいい・・・いや、イライラするんだけど、井澤との生活は快適だった。 私が読みたい本をカリカリすると井澤はその本を一緒に読んでくれた。 「これかぁ・・・・面白そうだと思ったけど思った以上に難しい本だったんだよなぁ・・・まあ、でもそうだな・・・良いきっかけだなぁ・・・」 ある日の夜、井澤が慌てて帰ってきた。 「やばいやばいやばい・・・明日までにこの資料つくんなきゃ・・・・あれ?PCの電源が入んないぞ・・・・・」 井澤・・・・・電源が抜けてる・・・・ お前が昨日その万年床で寝返りを打った時に足でひっかけてコンセントを抜いたんだよ・・・・ そういうところだよ・・井澤ぁ・・・・ 井澤は慌てふためいている。。。。 私はいてもたってもいられなくなり遂にやってしまった。 「井澤、電源!!!」 「え?電源?」 それでも井澤は電源ボタンを何回も押しながらテンパっていた・・・ 「ちがう井澤!!コンセント!!!」 「え?」 井澤はPCの電源が抜けていることにやっと気づいた。 「あーやばかった・・・・・」 井澤はPCにむかって作業を始めた。 15分くらいして・・・・ 「あれ?」 「・・・・しゃべった???」 井澤はふと思い出したかのように私を見つめた。 今頃気づいたわ・・・・・ このまま一緒に生活していくうえで・・・我慢するも億劫だわ・・・ それに井澤なら・・・・わかってくれそうな気がするわ・・ どうしよう・・・やっぱり語尾に『にゃん』とか『にゃ〜』をつけた方がいいかしら・・・・ 「・・・・そうだ・・・・・にゃん」 「うわっ!!ほんとにしゃべった!!」 私は井澤に自分がロボットであることを説明した。 井澤ははじめは怪訝な顔して聞いていたが、いろいろ説明していくと納得してくれたようだった。 「まじかぁ・・・信じられない話だけど・・・実際にこうやって目の前にいるしなぁ・・・」 「本に書いてあることだけが、全てじゃない・・・・にゃん」 「ところでさ・・やっぱ語尾に『にゃん』っていわないとしゃべれないの?」 「・・・・・これは・・・こうやって話した方が親しみやすいと思ったから言ってるだけよ・・・」 「あはは!!そっか、ありがと笑。いや、犬型のロボットもいるっていうから、犬型は『そうだワン』とか言うのかとおもっちゃったよ」 「もう言わないわ。疲れるし・・・・」 「もう一個『ところで』があるんだけどさ・・・・」 「なに?」 「名前・・・・聞いてなかったね・・・・あるの?」 「ないわよ。べつに必要ないし」 私がこの家に来てからかれこれ2週間たつけど、井澤は「おーい」とか「どこにいる〜?」など、名前で私を呼ぶことがなかった。普通一番はじめに決めそうなものだが・・・ 抜けていると言うか・・・変わっているというか・・・こう言う部分が、愛おし・・イライラするわ。 「うーん・・・・たしかに今まで名前呼ばないでもあんまり問題なかったけど・・・こうやって会話もできるんだしなぁ・・・・アタルヤって呼んでいい?」 「好きにしたら」 「じゃあ、アタルヤさん。よろしくね。あっ・・・女性に聞くのは失礼だとは思うんだけど・・・お歳は??」 「どっち?猫。人間でいうと?」 「あっどっちでもいいけど・・・・じゃあ猫で・・・」 「2歳よ」 「2歳・・・人間だと20歳くらいですかね?」 「もうちょっと上ね、23、4歳くらいかしらね」 「そうですか・・・えーと・・・なんか・・・一緒に生活していて・・・不満とかありますか?」 「・・・・たくさんあるけどいいの?」 「え?そんなにあります?」 「まずその万年床をなんとかしなさい・・カビ臭いわ・・・・、あと、昨日のキャットフード、イマイチだったわ。前のに戻して。あと、ネットでマタタビのこと調べてるみたいだけど、私ロボットだから効かないわよ・・・・あと・・・・」 「まだありますか・・・・」 「敬語やめなさいよ。今まで通りにして・・」 「あっえ?はい・・・・」 「あっあともう一つ・・・・井澤が学校に行っている時はパソコン使ってもいい?」 「え?使えるの?いや・・つかえるか。うん、いいよ」 井澤に思い切って告白して良かった。 その日以降私の生活はより快適になった。 井澤がいない時間はパソコンでいろいろ調べ物もできる。 キャットフードも前の美味しい物に戻った。 やっぱり言葉でのコミュニケーションっていうのは大切なのね・・・・・ ある日の昼間。 井澤が学校に行っているので、パソコンで色々調べ物をしていた。 『アタルヤ』・・・・・・・・ あいつ・・・・なかなかひどい名前をつけてくれたわね・・・・ なによ・・女帝というか・・・暴君じゃない・・・・ 処刑されているし・・・・ あとは・・・ふふふ・・・・ プライベートモードで隠したって無駄よ・・・・ 井澤はどんな女の子が好きなのかしら? ・・・・・・・ ふーん・・・こういう感じなのね・・・・ 可愛い系のMっ娘がすきなのね・・・・ ちょっとロリ入ってるわね・・・心配だわ・・・ あっ!!・・・・井澤・・・・だめよ・・・・・ JK物はあなたには禁断よ・・・・・ ふ〜ん・・・・ こういう女が好みなのね・・・ でも、どっちかというと、井澤自身がMだと思うけど・・・ 井澤は仕事を終えて帰ってくると、夜のニュース番組をみながら食事をする。 私はそのニュースをみながら井澤と話をする時間が好きだった。 「人間っておかしいわね・・・」 「何が?」 「だって民主主義とかいって多数決で物事決めるくせに、今度は少数派の意見を尊重するべきだとか・・・矛盾してるわ」 「うーん・・・まあね・・・でもしょうがないよね、少数派、マイノリティの意見も汲み取らないと差別だ!ってなっちゃう世の中だからね」 「でも世の中には一定数のバカは存在するのよ?その意見も聞くべきかしら?」 「バカって・・・まあでも、法の元ではみんな平等だからね・・・・」 「それすらも疑問だわ。本当に人間は平等なのかしらね?」 「え?うーん・・・」 「平等?というか・・・別にすごく優秀な人間が国を治めてみんなが幸せになれば、それでもよくないかしら?金に目が眩む無能どもが国動かすよりは」 「独裁???」 「そうね・・・人間。特に日本人は独裁=悪と思っているかもしれないけど、それは単純に指導者が私利私欲に走ってしまっただけで、本当に民のことを考えてる優秀な人間なら上手くいくんじゃないかしら?」 「うーーーん・・・でも歴史上そんな人間はいなかったわけだし、今人類が選んでいる選択は間違っているとは一概には言えないとは思うけどね。正しいか?と言われても微妙だけど」 「そうね、独裁者は大体処刑されたり、まともな死に方してないわね。『アタルヤ』とかもね」 「・・・・・・・それ言うためにこの話ふった?」 「ふふふ、どうかしらね。まあ、人間は変わった生き物ね。私には理解できない部分が多いわ」 「それは猫目線?ロボット目線?」 「さぁ・・・どっちかしら?両方かもしれないわね」 「まあ、あーちゃんみたいに割り切れる人だったら上手くいくかもね」 「あーちゃん?」 「アタルヤって呼ぶの長くてめんどくさくなっちゃった・・・だめ?」 「・・・・・呼び方はなんでもいいわよ・・・・それより・・・・」 「なに?あーちゃん」 「・・・・・たまには外に出たい・・・週末あの公園で本でも読みましょう」 「おっけーあーちゃん」 「・・・・・・・・・」 土曜日 久々に公園に来た。 井澤の部屋は沢山面白い本があってパソコンもある、特に不満があったわけじゃないが、たまにはこうやって外に出るのもいい。外の空気を吸えるし、井澤以外の人間も観察できる。 井澤と二人で久々にベンチに座って本を読んでいた。 「・・・・・・・・・」 「なに?」 「井澤・・・なにこれ?クソつまんないんだけど・・・・・」 「え?そう?なんか生徒たちの間で流行ってるっていうから読んでみようかなって『なんのとりえもない俺が、異世界に転生したら魔王の息子だったけど、不慮の事故でまた転生して最強のモブ村人Fになっちまった!!』だけど・・・・」 「・・・うん・・・クソつまんないわ・・・・・」 井澤がクソつまらない本を読んでいるので、私は久々の外と井澤以外の人間の観察をして楽しむことにした。 あっあの人は、いつもランニングに来ていたおじさん。 あいかわらずね・・・あの走り方だとそのうち膝を壊しちゃうのに・・・・ 田中おばあちゃんと小林おばあちゃん・・・良かった、二人とも元気ね。 あいかわらず同じ話をしてるけど・・・私が知ってるだけでも、その話12回目よ・・・・ あっ・・・・・・ 「井澤・・・・・」 私は周りにバレないように小さな声で井澤に話しかけた。 「ん?どうしたの?」 「仲間っていうか・・・・見つけた・・・」 「え?まじ?」 「うん」 「え?え?どこどこ?」 「落ち着きなさい・・・・あのチワワを散歩してる女の子」 「・・・うん」 「あのチワワがそうなの?」 「ううん・・・・あの女の子がそうよ・・・・」 「え?人型ってこと?」 「うん、しかも・・・・・」 「なに?」 「井澤が好きそうな女の子じゃない・・・・」 「え?」 「可愛らしい感じ。ちょっとロリっぽくて」 「ロリって・・・・」 「話しかけてみたら?興味あるでしょ?」 「うーーん・・・まあ・・・でも・・いいかなぁ・・・」 「なんでよ、人型アンドロイドなんて私も初めて見たわよ、しかもあんな可愛い女の子だなんて」 「うーーーーーん・・・・」 「なによ・・・・せっかく教えたあげたのに・・・・・」 井澤は本を読み終えて、家に帰った。 いつものように夜のニュースを見ながらご飯を食べていた。 「・・・・・・・・」 「あーちゃん・・・なんか怒ってる?」 「別に普通よ・・・」 「うそだ・・・いつもより無口だよ」 「・・・・・・」 「ほら・・・なんか不満あるの?言ってよ折角話ができるんだからさ」 「・・・・・朝の・・・・」 「うん?朝?」 「朝ごはんの時いつも見てるじゃない?TV。」 「え?うん」 「『今日のわんこ』」 「え?うん」 「井澤は本当は犬派なの?」 「え?」 「私が猫型ロボでめずらしくて興味を持って一緒にいるの?本当は人間の言うことを聞いてなつく犬の方が好き?っていうか、女の子もMっぽい従順なタイプが好みなんじゃないの?」 「え?ぷっ・・・・・笑」 「なによ。なにがおかしいのよ」 「あーちゃんそんなこと考えてたの?」 「・・・・・・・」 「うーーん、別にあーちゃんが猫だからとか犬とかっていうよりは・・・・一緒に本を読んでくれるのが嬉しかったからかなぁ・・・あーちゃんを連れ込んだのは笑。あと・・・女の子の好みは・・・っていうかあーちゃん俺のフォルダみたの?」 「にゃあ・・・・・・」 「なに猫のフリしてんだよ笑。ごまかさないでよ笑。まあ・・・そうね・・あーちゃんがいうような可愛い系、ロリ系は・・まあ好きだけどねぇ・・・でも付き合うなら・・・・」 「井澤・・・JKはだめよ・・・絶対・・・」 「・・・・・・・・」 「そうだなぁ・・・付き合うなら・・・あーちゃんみたいな女の人がいいかなぁ・・・でも今あーちゃんいるし・・あーちゃんヤキモチやきそうだしなぁ・・・・」 「やかないわよ・・・人間になんか・・・」 「ほんとにぃ・・・?まあいいや。そうだなぁ・・・でもあーちゃんみたいな人の方が俺にあってそうな気がするけどなぁ・・・たまには甘えてほしいって思ったりするかもしれないけど・・・・」 「あっやべ、こんな時間だ、あーちゃん寝よう」 なによ・・・井澤うれしいこと言ってくれるじゃない・・・ まあ、私は猫だし、ロボットだから、関係ないけどね・・・・・ 「あーちゃん起きて、朝ごはん!!」 次の日の朝、いつものようにTVをみながら井澤と朝ごはんを食べた。 いつものように・・・・・ TVには「おはようにっぽん」という番組が流れていた。 「じゃあ、あーちゃん行ってくるね、試験前だからちょっと遅くなるかも」 「・・・・うん・・・でも・・・」 「うん?」 「なるべく早く帰ってきてほしい・・・にゃ」 「・・・うん笑。わかった頑張るよ。じゃあね!」 その日も井澤はそんなに遅くならずに帰ってきて来てくれた。 汗だくで息を切らせて帰ってきたけれど笑
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